にっし

□07/21 九十九瑠衣
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ー勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。

こんなんじゃ勝てない。

もっと速く。もっと強く。

走れ。投げろ。打て。

伝統が、守れない。ー







5月上旬の頃の話だ。





「龍。今なんで走らんかった」

「は?」

龍が顔を歪めた。すごく、敵意を剥き出しにして。

「走っても取れてねーやろ」

「走らなきゃわかんねーやろが。」

「よせツモ、今のはどう考えたって無理やろ」

玲也が腕を掴んできた。

触んな、と勢い良く振り払うと、玲也が一瞬ビクッとして下を向く。

場の空気が、糸みたいに張り詰めたのが、嫌でもわかって。

うっざ、と龍がこぼした。

礼央が「龍!やめろ!」とベンチから声をあげた。

前日龍が大地とモメて、いらついてたということもあったんだろう。

最後の大会が迫ってピリピリしているのもあった。

今考えればわかるのに。

俺は龍に殴りかかった。

その時。

「ツモ!」

「っ…!」

殴りかかった腕をがっしり掴んだのは、

副部長の安田立樹だった。

それも、笑顔で。

「…なんやねんリツキ。お前に関係ないやろ」

振り払おうとするが、細っこい腕で俺の腕を掴んで離そうとしない。

「はいはい、龍も手貸して」

頭に疑問符を浮かべたまま、龍がリツキに腕を差し出す。

リツキは俺の手と龍の手を付き合わせ、

「仲直りね!」

とまたニコッと可愛く笑った。

玲也が視界の端でぶはっと笑ったのが見えた。

つられて、下級生も。

「立樹、おまえ空気よめなすぎやろ」

龍もそう言って、俺の手を握りながら笑った。

なんだかバカらしくなって俺も笑った。

「悪かった龍。」

「いや俺も走らんくてごめん」

手を離すと、リツキもニッと笑った。



花が咲くみたいに、笑うヤツだった。








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