にっし

□07/21 岡島龍
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ちょっとさみーなーなんて隣を見る。

「せやな。」

「てゆーかなんで今日三つ編みなん」

いつもはおろしているセミロングの黒い髪が、

今日は何故か二つに結われてきっちり編み込まれていた。

山田は目を細める。

「…似合わない?」

「そういうわけではないけど三つ編み嫌いやねん」

頭の端で、あいつが浮かぶから。

「松本奈々?」

「っうぇ!?」

図星されて、思わず変な声を出してしまう。

隣でニヤニヤ笑う山田が、なんだかいじらしい。

「アタシに奈々ちゃん重ねられたら困りますよーあんなに可愛くないし」

「まあアイツ顔は可愛かったからな。あと標準語きめえからヤメロ」

「…ふーん」

少し前を歩き始めた山田の顔は、もう見えなかった。

…あ、いかん。会話会話。

『岡島龍』の仮面をかぶり直して、話そうとした時。

山田がいきなり、結んでいた髪をほどいた。

「!?」

どうした、とつぶやくと、山田は振り返り、

「アタシと奈々ちゃん、比べんで。」

と少し大きめの声で言った。

いつもはストレートな髪の毛が、結んでいた跡が残って

ふわふわと揺れている。

それが綺麗で。

それだけ言うと山田は前を向いて歩き始めた。

「…悪い。」

声になったかはわからなかった。

自分の不器用さに改めてびっくりする。

ー山田と奈々を重ねてる?ー

浮かんだ考えを打ち消すように、俺は前を歩く山田の背中を見ていた。

「やっぱ塾行くのやめへん?」

ふいに、その背中がもう一度振り返った。

電灯だけが頼りのこの一本道で、

山田がどんな表情をしているのかはもうわかんなかったけど。

「今日は星出てへんから、星を見つけに行こ!」

「はぁ?なんやそれ無理やろ」

「無理じゃない」

そう言って寄って来ると、俺の冷たい手を掴んだ。

暖かい人の肌の感触が手に伝わる。





ーやめてくれ。俺の中に。これ以上入ってこないでくれ。

『…ごめん。龍、本当にごめん』

泣きながら奈々は謝った。

悪くないのに、奈々は謝って、

『ごめん。ごめんなさい。ありがとう。』

そう言って、大きい目を細めて目一杯、淋しそうに笑った。

それが奈々の俺に向けた最後の言葉だった。







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