にっし

□07/21 山田真綾
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ちょっとさみーなーなんて隣で笑う。

その笑顔に胸がきゅんってした。

「せやな」

「ていうかなんで今日三つ編みなん」

前を見ながら話していた岡島は、

ふいにアタシの方を見ながらつぶやいた。

大きな目がいじらしい。

「…似合わない?」

岡島より幾分小さい目を細めながら聞き返す。

「そういうわけではないけど三つ編み嫌いやねん」

そしてまた彼は前を向く。

なんだかバツの悪そうな顔をしていた。

「松本奈々?」

ニイ、と微笑んで見せると図星だったようで

「っうぇ!?」

なんてまぬけな声をあげながら顔を赤めている。

大丈夫だ。うまく、笑えているはずだ。

奈々ちゃんのぴっちり編んだ三つ編みが頭をよぎって。

アタシには関係ないのに。なんて思う。

「アタシに奈々ちゃん重ねられたら困りますよーあんなに可愛くないし」

口をついて出た言葉は全然カワイクナイ。

なんでこんなに動揺してるのかも、ワカンナイ。

「まあアイツ顔は可愛かったからな。あと標準語きめえからヤメロ」

ズキ、と胸が痛んだ。

もちろん表現だから痛んだわけではなかったけど。

そうだ。あってるんだ。

奈々ちゃんは、顔可愛いやん。

自分に言い聞かせながら、ふーん、と興味なさげに返す。

顔を見られないように少し前を歩きながら。

その後。妙な間。

ダメだ。なんか岡島と話すと調子狂うな。

晩ご飯なんやろ。ハンバーグがええわ。

いや、そうゆうことじゃなくて。

奈々ちゃんの顔が浮かんで、消えて。浮かんで、

消えなくなって。

気づいた時にはアタシは髪をほどいていた。

後ろから「どうした」と少し驚いたような岡島の声が聞こえた。

反射的に振り返って、

「アタシと奈々ちゃん、比べんで。」

と少し大きめの声で言った。

嫌だった。

奈々ちゃんがアタシより可愛いとか、声が綺麗とか、そういうんじゃなくて

だから比べられたくないとかじゃなくて、

岡島がアタシから離れて行くような気がしたから。

前を向いて歩き出す。

「…悪い。」

後ろから小さく聞こえたその声はいつもの岡島じゃないみたいで、

ふいにまた後ろを振り返った。









「やっぱ塾行くのやめへん?」

うまく笑えたかはわからなかった。

でも岡島がまた驚いた顔をしているのは、見えた。

「今日は星出てへんから、星を見つけに行こ!」

「はぁ?なんやそれ無理やろ」

「無理じゃない」

近寄って、岡島の手を勢いよく掴んだ。

一瞬岡島の顔が歪んだ。





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