にっし

□07/23 吉田玲也
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「絶好調やなー龍!」

「んまーね!」

勢いよく振りかぶって、投げる。

左投左打。龍のこのスタイルは珍しいものだ。

要は左で投げる、左で打つ。

午後の練習が始まる20分くらい前。

龍は立樹に「試合の前に一回スプリットの練習させて!」と

弁当を食べ終わるなり頼み込んでいた。

んで、今に至る。

弁当を食べながら俺とツモは、二人を遠目に見ていた。

「すげーな。龍は。これ135qくらいあるんやない?」

ツモが怖いものを見るような目で龍を一瞥する。

「中学で135とか…やべー」

「ここらへんでも140近く投げれんの、あんまおらんやろ」

大地も体ナマってちゃんと投げられへんし。

ツモの言葉に頷きながら改めて龍のフォームを見る。

真顔で前だけを見据えながら。

大きく腕を振り上げて。

勢いよく踏み込んで。

力強く投げる。

簡単なその動きにも努力がにじみ出ていて。

やっぱこいつ、野球好きなんや。と。

クラスで騒いでる時とは比べものにならないくらいに

真剣な龍の顔を見て思う。

「スプリットうまく投げれへん〜もういやや〜」

「フォークより浅くフォークより浅く!」

「あ、わかた。俺フォークが駄目やからスプリット投げれへんのや」

フォークの練習する!とボールを深く持ち直す龍に、

やれやれといったかんじで笑う立樹。

「んじゃ俺も付き合ってくるわ。

玲也も弁当食い終わったら集合な。」

ツモが立ち上がる。





龍、てめー変化球下手くそなんやからもっと簡単なのから始めろや

えーでも俺スプリットやりたいんねん!

なになに?あれ?マーくんの影響?

ちゃう。だって俺阪神やもん。





風の隙間から抜けて聞こえる三人の声は

どこまでも真っ直ぐでずっと先を見据えてて

あ、こいつらと俺って、やっぱ違うんや。

そんなことを思っちゃったりして。






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