にっし

□07/23 山田真綾
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「っうわ!」

バスッという勢いのいい音と共に、

立樹のグローブの中にボールは吸い込まれた。

唖然とする打者と、ニヤッと笑う龍。

立樹は一瞬ぽかん、とした後にいつもみたいに思いっきり笑った。

「三振!龍本当絶好調やね〜」

「んま、捕手がいいからな。立樹ナイスリード!」

そう言ってボールを持っていない方の手の親指を立てる。

チームでの練習試合。三回裏。

龍はほとんど相手のチームに打たれることがなかった。

確かに捕手の立樹が優秀ということもあるんだろうが、

今日はなんだか調子がいいみたいだった。

「ほーんと、龍は野球しちょる時はかっこよいよなぁ」

彩音が短い黒髪を揺らしながら、隣に座って来た。

ボトルを並べつつ「せやねー」なんて興味なさげに返す。

「いつもはうるさいだけやけどな。塾とかなぁ」

「…うるさいん?龍」

「うるさいよ。この間も塾の先生に怒られてん」

真綾が来た時は、めっちゃ静かだったけどなぁ。

そう言って大きな口で歯を見せて笑う。

確かにクラスでもうるさい。

空斗と龍はクラスのお笑い担当みたいなかんじで、

いつもネタを振られたり振ったり。

それでまたおもしろいからみんなの中心になる。

ーその時の龍はあまり好きじゃない。

なんだか遠く感じてしまうから。

「ーってば!ねぇ!」

「!」

彩音の声に反射的に上を向く。

「もぉー大丈夫?真綾。」

「ごめんごめん、聞いとらんかった」

「疲れてるん?今日は、はよ寝た方がええよ」

心配そうに覗き込んでくる彩音。

駄目だ。なんか調子狂うな。

いつもみたいに笑顔を作って、

「大丈夫!話の続きして。」

と手をたたく。

彩音は安心したように頬杖をついた。




「でさ、この間ウチ龍と野球練したんよ。」



時が止まったみたいだった。

その言葉は確実にアタシの中に入って来て

ゆっくりと、じわじわと広がる。

「…いつ?」

小さく呟く。彩音は尚もケラケラ笑いながら、

「んーとね、いっしゅーかんくらいまえ。」

なんて悪びれもせずに答えた。







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