にっし

□07/23 岡島龍
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窓の外の空が暗くなってきた頃。

旅館に移動した俺らは、6時まで自室で休息をとるように言われていた。

広い部屋。学年ごとに分けられているのでこの部屋では9人が雑魚寝することになる。

あんまり広いのもあれだな、なんて思いながら

自分の布団を敷いた。

「龍ゥー俺の布団も敷いといてぇ」

礼央が携帯をいじりながら呟く。

生憎携帯を持っていない俺は、枕を振りかざすと

礼央に勢いよくぶつけた。

バフッというにぶい音。

「った!なにすんねん」

「自分で、敷け。」

そう言って布団を指差す。

礼央はめんどくせーなんて言いながらしぶしぶ携帯を畳の上に置いた。

部屋には俺を含め4人。

他の部員はみんな風呂に入っている状態だ。

いつもなら「マネの着替え覗くで〜」なんてニヤニヤしそうな玲也も

さっきのことがあったせいだろう。

無言真顔で準備を終えたのち一人で風呂へ行ってしまった。

玲也が俺や礼央にイライラしているのはなんとなくわかっていたから声はかけなかったが、

ツモなら上手くやっているだろうと思った。

それぞれが自分の好きなことをやるなか、

布団を敷き終わった俺の頭に浮かぶのはやっぱりさっきのことで。





ー1人にして。





冷たく言った真綾の手が震えていた。

唇を噛み締めていた。涙をこらえていた。

気付いていたのに声を掛けることが出来なかったのは

何が原因で真綾がイラついているのかわからなかったから。

ぼんやりと考えはじめた頭に、霞がかったモヤのようなものが渦巻く。

「…あーやめよ。」

「どした?龍」

布団を敷きながら声をあげた礼央の顔を見た。

やめよう。考えても仕方ない。

俺は考えることを放棄した。

「…野球拳しようぜ」

「男でやってもつまらんやろ〜」

俺の提案に笑いながら突っ込んだのは、一塁手の三浦泰司、通称サンちゃんだ。

明るくみんなの兄貴みたいな役割。慕われている。

でかい図体をしており、足の速さは人より劣るものの

屈強な体格を活かしたバットのスイングで安定の打率を誇る根南の得点源だ。

「じゃあ無難にトランプやろうで」

「お、トランプなら乗った〜」

「俺もやる!」

布団を敷き終わった礼央と、サンちゃんが俺のまわりに集まってきた。

俺はトランプをシャッフルしながら、

「千尋もやろうぜー」と端にいる千尋に声をかけた。

橘千尋。女みたいな名前に見合った女のような風貌をしており、

小心者で試合ではあまり目立った結果を出していないものの

頭脳面では根南野球部随一を誇り、

監督や部長からの意見を求められることも多々ある。

ポジションは中堅手、いわゆるセンターで

守備の要の役割もしている。

いつでも冷静、また中学まで東京で暮らしていたこともあり標準語を使うので

根南では一番頭が良く見える。まあ実際そうなのだが。

「…別にやってもいいけど」

相変わらずの真顔で呟いた千尋に、

おめーは可愛くないよなーなんて笑うサンちゃんが、なんだかいじらしかった。







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