にっし

□07/19 山田真綾
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目が、慣れていない。

教室がやけにみどりばんで見えたが、それも一瞬のことだった。

窓側後ろから二番目という夏の特等席に、理科の教科書を乱暴におく。

ド田舎中学。ジュケンセーだというのにエアコンなんてものはない。

夏は窓からふく風のみが、オアシス。

だから席の場所自体はいいんやけどな、なんて思う。

起立、というななちゃんの澄んだ可愛い声が通る。

だからなんでそんなにかわいい声が出るん。

出しかた教えて欲しいわ。

あ、でもああゆう声って自然に出るモンなんかなぁ。

出したことないもん、わからん。

ななちゃんの口をみながらくだらないことをかんがえていたその時。



バタバタというスリッパの音。

あと、なんかでかい笑い声と、ボールの音。

「遅れてサーせぇん」

唐突なハスキーボイス。

声の主、田中空斗。タナカタカトとその連れ三人が教室のドアを乱暴に開けて入って来た。

サーせぇんって、なんやねん。すいませんも言えへんのーなんて、ミキちゃんが笑っている。

空斗は、げぇー次理科じゃんなんて言いながら、

教科書も持たずに一番前の席につく。

(なお一番前になったのは先生の希望である)

理科の先生はコクコクと頷くと、黒板に文字を書き始めた。

このハゲは不良にびびっちゃって、されるがままだ。

他の三人も何がおもしろいのか笑いながら席についた。

そのうちの一人は、私の右側に。



理沙のこともあって、いつもは見ないその横顔に目をやる。

空斗と違いちゃんと着てある制服。

白いシャツは限界までまくられていて、

学ランのズボンもひざのあたりまでまくってあって、

体育館で遊んでいたからだろう、暑いのかどっかの野球チームの下敷きであおいでいる。

あ、ずっと前にハンシンが好きとか言ってたな。

じゃあこの下敷きはハンシンのかな。

眉毛は、ある。整えてないと思う。

目は大きくて、歯並びがいい。

坊主までいかない、野球部らしい髪型。

ぶっちゃけかっこよくねー、どこがいいんやろう。

思わずまた顔を歪めそうだったので、教科書に目を戻した。



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