にっし

□07/20 岡島龍
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山田を誘ったのに、

対して理由はなかったんだと思う。

というか来ると思ってなかった。

なんとなく今までの態度から、嫌われてるのかなと思ってたから。

例えばそう、一本線を隔てた距離を置いているような。

俺の『中』に干渉して来ないのはとても助かるが。

「おめ、ガチめに歩くのおせえから」

くるりと後ろを振り返ると、山田は目を細めた。

「うっさい、あんたらが速いんよ」

「いやいや通常ペースでしょ、これ」

んなことない!とふてくされて走ってきた。

礼央は笑いながら声がでけー、なんて言っている。

学校外で山田に会っているのがなんだか新鮮で

照れくさくなって袖をまくった。

空斗のマネしてつけたミサンガが揺れる。

ほそっけえ腕。こんなんじゃ大地に勝てんなぁ。

むかつく面を思い出しながら、もう一回振り返る。

「礼央、やっぱ今日コース変えよ」

「へ、いきなりなに?」

太めの眉をさげながら、礼央が笑う。

「公園の上の坂あるやん、あそこ10本ダッシュな」

「りょーかーい」

「ええー…ありえんそんなに走るん」

「おまえはマネージャーやからタイムみとって」

俺が山田を指差すと、

山田はいたずらっぽく笑って、

「アタシも走るにきまっとるやんか」

と言った。

なんだろう。繕った理沙の微笑みとか、

俺の心を見透かすような礼央の目とか、

やっぱり黒い三つ編みを揺らしながら笑うアイツの顔とか。

怖かったもの全部がバカらしくおもえてくるくらい、

その笑顔に惹かれた。







星全部数えちゃる、と上を見ながらのろのろと歩く

山田の姿がなんだかアホらしくて。

「あほ。はよ歩け。」

なんて振り向かずに言っちゃったりして。

礼央は相変わらずニコニコしてて。

これがきっかけとなったのは、言うまでもなかった。








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