にっし

□07/20 岡島龍
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「風がむしあついんやけどー!」

ほんまにこんなとこで走っとんやー、

と山田が靴紐を結び直す。

鈴虫の声が響きわたるこの公園は、

国道(といっても細いが)に続く急な坂があることから、

そのまんま「急坂公園」と呼ばれている。

実際最後に来たのは五年前だった。

「いつもは来ないんやけどね、」

俺が手を鳴らしながら言うと、山田は文字通りきょとん、と俺を見た。

「え、そうなん?」

「ん。普段は礼央っち家から灯台までを三周」

今日は走るの遅いヤツがおるからなぁー、といたずらっぽく笑うと、

いっぺん沈めちゃる、と山田は言った。

「んじゃー10本!よーい、でスタートやで」

ウォーミングアップを終えて、あどけなさが残る少年の顔で礼央が呟く。

「おう。んま、一番は俺だな。礼央はおせーし、山田なんか敵じゃねえ」

スタートライン(木の枝で礼央が引いた)に立ち、

隣を覗くと、山田は負けへんよ!と走るポーズをしていた。

人口的な電灯の光に照らされる急坂を見つめる。





ーおまえむかつくんだよな

ー俺より下手くそなクセして投手とか

ーゲーセンいったのばれてなきゃ俺が投手だけど

ーま、せいぜい頑張れよ

ー中体連は俺が出る




いけすかないヤツのいけすかない標準語を思い出して

俺は軽く足を鳴らした。




ーいや、どうせだったらこの試合も出ろや

ー俺もこんな形で投手なんかやりたくねえし

そう言って大地の顔を思いっきり殴った。

顧問も、担任も、たくさんの先生がみんな止めにきた。

イライラが収まらなかったからもっかい殴った。

結果、俺も部停になって、投手はまた別のヤツがやることになった。

大地は殴ってこなかったし何も言ってこなかったけど、

今回負けたのは俺だ。と子供心に思った。






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