にっし

□07/21 中島悠次郎
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あの後もなんとなく気まずい雰囲気が流れてたけど

空斗も龍も、玲也も、俺をはじこうとか、

そういう話はしていなかった。

五限目の終わりに、玲也がバツの悪そうな顔をして

謝ってきたから、気にしてないとは言った。

本当にあまり気にしていなかったから。

それからなんとなく、放課後にはいつも通りに戻っていた。

俺らは『気がついていないフリ』をするのが得意だ。

うるせえセンコーのきたねえ言葉とか

教室の端でボソボソ話してるダサい男子とか

理沙の視線の先にある、座席をくっつけようとする龍の顔とか

その顔の裏側に張り付いてる『龍』じゃないなにか、とか。

一歩線を隔てたような関係性といえばわかるんだろう。

龍は常に誰とでも距離を置いて接しているように見える。

あ、四組の長谷川レオ、とは仲がよかったっけ。

あまり話したこともないようなヤツだ。

正直なんで龍とその長谷川が仲良いのかも知らないけど。

とりあえずそいつ以外、つまり俺らとは距離を隔てている。

それは多分ー。







「アイツは自分の中を見られるのが怖いんだよ」

放課後。体育館裏、要は溜まり場。

イケスカナイ標準語を並べながら、

目だけで、二ミリくらい。

目の前で、彼は笑った。

紅大地。龍の、よく言えばライバル。悪く言えばー、

人を滅多に嫌わない龍に嫌われている男。

明るい金髪をくしゃくしゃとワックスで整えたあと、

壁にもたれかかって座っていたのをやめ、立ち上がった。

どこか読めない動きをするヤツである。

「…中、って、なんや。」

木の影に身を寄せながら、ボールを蹴飛ばした。

部活さぼっちゃあかんな。とりま学級委員やし。

「おまえ、あれほど龍と一緒にいてわかんねーの?」

あきれた!というように手をあげる、大地。

『演技性人格障害』

大地の背負う病気の名前だという。

正直なんの病気なのかもよくわかっていないし、わかろうともしてない。

龍がこいつを嫌おうが、他の野球部がこいつを嫌おうが、

俺は好きなんだから、つるんでる。

それだけで十分だ。







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