にっし

□07/21 九十九瑠衣
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「龍やったなぁあああ!ウェエエエエイ!」

龍に飛びついたのは、玲也だった。

他の部員も龍の周りに集まっていて、龍はその中で一番に笑っていた。

「良かったなぁ最後、スタメンで出れて」

立樹が隣でまたニッ、と笑う。

その喧騒から少し離れた場所で、俺と立樹は立っていた。

「ホンマよなぁ。」

「まあツモは余裕やったと思うけどね、『根南の笑わない遊撃手』さん」

「なんやそれ」

ポエミーなあだ名やな、と笑うと、立樹はきょとんとした顔をして、

「え?ほんまに知らんの?」

と呟いた。

「何が?」

「ツモの異名やん。他校のヤツみんな呼んどるがな」

「ほんま!?なんかかっけーなそーゆーの!」

自分に異名があったとは。

でもなんだ『笑わない』って。笑っとるやん。

気付いてなかったんかーおまえやっぱおもしれー

とか笑いながら立樹はグローブを外した。

「龍にもそーゆーのないん?」

「龍?龍は、ないやろ。地区予選去年も一昨年もでとらんし」

そういえばそうだ。と思う。

「でも多分すぐ出来る。龍はスゲェもんな」

立樹の言葉に頷いた。

「山田!俺、投手!」

「良かったね!」

喧騒から抜き出た龍が、タオルを畳んでいた真綾に駆け寄る。

ニコ、と真綾は笑った。

あれ。なんか、違和感。

龍と真綾ってこんなに仲良かったんか。

「龍と真綾ってそんなに仲良かったっけ」

隣で立樹が真顔で聞いた。

俺の気持ち代弁しよんよなーコイツ

龍は「仲良いよ!」といたずらっぽく笑った。

真綾は「そーでもない」と真顔で返した。

なんだか対象的で、立樹と目を合わせて笑ってしまった。





龍は、本当にスゲェ奴だ。

速くて、強い。

大地よりも、誰よりも何処のヤツよりも努力してる。






もうすっかり暗くなったグラウンド。

少し肌寒い風。

細い龍のまくった学ラン姿と、

その隣を歩く膝丈スカートの真綾。

ぼんやりと、見つめていた。

「なーんか負けたってかんじ?ま、いいけど」

「!」

隣で立樹がいたずらっぽく笑みを作った。

本当にこいつは、俺の気持ちを代弁しよんなぁ。









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