にっし

□07/21 岡島龍
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「っやめ」

逃げるように山田の手を振り払うと、

山田は目を丸くしながら俺を見ていた。

「…岡島?」

…やば、

「なんてね、嘘やで。じゃあ星見つけにいこっか」

いつもの声を作って、いつもの笑顔を作って。

岡島龍を作って。

『俺』を奥にしまいこんで。

その俺を見据えるような山田の瞳から、

逃れたくて、逃げたくて。

山田の前を歩きだした。

もう山田の顔は見れなかった。

「龍!」

大きな声に、反射的に振り返る。

ー名前で。

またアイツの顔が浮かんだ。

「アタシの名前覚えてる?」

「…?」

「アタシの、名前!」

聞こえなかったと思ったのだろう。少しボリュームを上げて

叫ぶように山田は言った。

「…真綾」

「うん!」

名前を呼ぶと、嬉しそうに笑う。

ダメだな。こいつと居ると。

『岡島龍』で居れなくなる。

「真綾。真綾、真綾。」

何度も名前を呼びたくなる。

「…漫画とかであるよね。初めて名前で呼ぶ、みたいな」

また花が咲くみたいにニカッと笑うと、

真綾は走り始めた。





奈々と重ねてる訳じゃなかったけど、

名前で呼んだら壊れてしまう気がしてた。






「さ、行こ!龍。」

だけど真綾はー。

走り始めた後ろ姿を追うように、

岡島龍の仮面を脱ぎ捨てて、

俺は勢いよく地面を蹴った。









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