にっし

□07/21 山田真綾
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「っやめ」

取ったその手は、静かに、でもはっきりと

『拒絶』された。

岡島の顔にも、はっきりとその色は浮かんでいた。

振り払われた手がキシリ、と音を鳴らす。

「…岡島?」

ぎゅっと拳を握り閉めながら問いかける。

いたい。痛い、イタイ。

なんで振り払われたの。なんで振り払ったの。

岡島はアタシの言葉に、はっとしたように顔を歪ませ、

すぐにいつもみたいな笑顔を作った。

「なんてね、嘘やで。じゃあ星見つけにいこっか」

いつも『みたいな』、花が咲くみたいな笑顔だ。

いつも『と一緒』ではなかったけど。

これが岡島じゃなくて、岡島の中なんかな。

少し考えたけど、いきなり前を歩き出した岡島の顔はもう見えなかった。

みんなに囲まれて人に愛されてる岡島が、

アタシに背を向けて。

大地を殴った時みたいに人を拒絶する『それ』が、

合間見えた気がして。

アタシは『それ』を、『龍』と名付けることにした。

「龍!」

前を叫んだ。

ちゃんと『龍』の中まで届くように。

アタシの言葉が抜けていかないように。

振り返った龍の顔は、もう『岡島龍』じゃないくらい壊れそうだった。

ので、アタシが守ろうと思った。

「アタシの名前覚えてる?」

小さめの声でつぶやくけど龍は首を傾げたままだった。

「アタシの、名前!」

少しボリュームを上げて叫ぶように言う。

「…真綾」

ぽつり、と壊れそうな声で零れたその言葉が

愛しくて愛しくて。

アタシの言葉が龍に伝わったことが

嬉しくて嬉しくて。

「うん!」

いつもより高い声ではにかんで返事をした。

暑いな。なんて。

少しだけ、縮んだその距離が掴むようにわかっちゃって。

ああなんだかもう。

「真綾、真綾、真綾。」

龍が名前を何回も呼んでくれるのが嬉しくて

空斗とか理沙とか、ツモとかに呼ばれる時より

自分の体温が高くなってるのがわかった。

「…漫画とかであるよね。初めて名前で呼ぶ、みたいな」

またニコッと笑って、次はアタシが前を行く。








アタシにとって『みんなのアイドル』だった『岡島』は

今日『みんなを拒絶する』『龍』に変わった。

いいことなのか、悪いことなのかはわからない。

でも少しだけ。ほんの少しだけだけど。

『山田真綾は拒絶しない』『岡島龍』に変えてみたくなった。

世界が君の味方じゃなくなっても

世界が歪んだ君から身を引いても

アタシだけは逃げないよ、逃げないから。

弾かれた右手を握りしめて空を見上げる。

星の綺麗な夜の話だった。

アタシは確実に、岡島龍に惹かれていたのだ。







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