にっし

□07/23 吉田玲也
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「玲也、ボトル貸して」

山田が俺の隣でしゃがんで、手をだしてきた。

同じクラス。同じ部活。

だけどあんま話さない。

空斗とか龍とは仲いいけど、多分こいつは俺のことをよく思ってない。

だからなんとなく距離をおいてるわけで。

「…」

無言のままボトルを渡す。

いつもならこれで終わるのだが、

山田は俺の隣でしゃがんだまま動こうとしない。

「…なんだよ」

ちょっとだけぶっきらんぼうに発する。

山田はそんな俺を一瞥した後、

再び練習をする龍達に目を移した。

つられて俺も龍達を見る。

「…龍はすごいよなぁ」

零すようにそう洩らした山田の声が

俺に対する敵意をはなっていた。

「せやな」

あえて気付かないふりをして下を見た。

龍は努力をしている。だから上手くなる。

俺は努力をしていない。だから上手くならない。

山田はそう言いたいんだろう。

きっと最後の大きな大会で、

絶対に勝ちたいと思う部分が、彼女にとっても少なからずあるんだろう。

最近調子の悪い俺がレギュラーなのが

山田にとって不満なんだと思う。

「…あれ?そういえばさぁ。山田って龍のこと名前で呼んでん?」

少し前まで岡島、なんて呼んでいた気がする。

山田は少しだけ目を細めて、

今度は俺の顔をはっきりと見つめた。

「…あたしは、玲也が上手いとは思わない」

いつもよりも少し大きめに発されたその言葉が、

なんとなく余韻を残しながら。

ああ、俺の言葉は山田には届いてないんだ。

的外れに答えてきた山田の目を見つめると、

彼女は口を開いた。

「礼央の方が、何倍も努力してるし上手いと思う。」

そう言って立ち上がると、

俺の方は見向きもせずに龍の方へ走って行った。

礼央は俺と同じポジションで。

俺よりやっぱ何倍も努力してて。

でもみんなにはあんま好かれてなくて。

龍の親友で。

…俺にないものをもってる奴だ。

「だって俺、紅茶嫌いやもん」

自分に言い聞かせるように呟いて立ち上がった。

頭の中で礼央の居場所を模索する。

どうしようもないこの怒りとか

誰に向けてなのかわからないこの葛藤とか

そういうものを何かにぶつけたくて。

俺は龍達に背を向け、歩き出した。





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