Event 1

□カップル
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「うっまぁ〜♡ 」

「ああ、旨いな…。」

「確かに、こりゃ手間かけたな。
コレ、出汁は鰹と昆布と…あと何だ?」

「あ、少し日本酒入ってるんです。
あと香り付け程度に生姜の搾り汁も。
最近冷えたし、温まるから…。」

「へぇ」

「あと、ほんの少しだけ葛粉を。」

「ああ、だからほんの少しトロミ?」

「はい。」

「うっはー温まるぅ〜…。
な? 咲ちゃん飯食えて良かったろ?
疲れも吹っ飛ぶあったか手料理!」

「結果的にはな。」

「…夏輝には迷惑掛けたがな。」

「――もういいよ、
確かに俺も大人げなかったし。」


皆さんと一通りお料理を食べ終えながら
静かな夏輝さんの声がそう言っては
くれたけど…


「あっあの、私もこんだけの量、
作っちゃってたので…っそっそれにっ、
折角のハロウィンなのに、ハロウィン
らしさゼロでごめんなさい…っ」


思わず慌てて言い訳めいたフォローを
して、それが逆効果な事に気付いた。


「…いや、別に俺らはハロウィンだ何だ
なんてのは特に思い入れもねぇし、
何よりそれ一色の欧州から帰って来た
トコだから食傷気味だったからな。
――冬馬、見ろ、お前のワガママが
咲ちゃんも困らせてんじゃねぇか」

「えー…?」

「こ、困ってなんかいませんよ?
ホントに! えと、あの…」


何だか墓穴を掘ってる気がして尚更
言葉に詰まってしまう。
皆さんと食事を一緒出来るのはとても
楽しく思ってるのに。

ぐるぐると考えてしまったアタマでつい
探し出した話題転換。それが…


「あ、あの…、ふ、普通恋人とか婚約者
とか、お付き合いしてる人とは普段から
ケンカってするもんなんでしょうかっ」


なんて、今までの会話と何の脈略も無い
様な話の飛びようで…あまりの自分の
コミュニケーション能力の無さに眩暈
すら起こしそう。

でもその話題の飛び方をどう捉えたのか
夏輝さんがサッと顔色を変えた。


「えっちょっと待って、俺 別に
咲に怒ってた訳じゃ…っ」

「何だそりゃ、
巷で言うトコのケンカップルか?」

「へ? けんか…っぷる?」

「ケンカばっかしてっけど実は仲良い
カップルをそー言うみたいだぜ?
所謂ツンデレとかも含むのかもな」

「ぎゃはは、なっちゃんと咲ちゃん
カップルとは相容れねぇな。」

「…相容れ、ない…?」

「だってお前さんら、まずケンカなんざ
しねぇだろ? 咲ちゃんは元から
ケンカする性質じゃねぇし、夏輝もまー
若干血の気は多いとはいえ そんなに
喧嘩っ早い訳でもねぇしな。そもそも
お前さんにゃデロデロに甘いから何を
言われたって腹も立たねぇだろうし。
つーか、まぁ先ずお前さんもそんな事ぁ
今までだって一度も言ってねぇしな。
そんなんじゃケンカは成立しねぇわな」

「そーそ、なぁぜかなっちゃんがキレて
手が早いのって俺にだけなんだよなー。
これってメンバー愛? カーッ!」

「阿呆か」

「あ、あの…っ、それって変、なんで
しょうか…っ? あの、あの私夏輝さん
しか知らなくて…っこれが普通だと
ばかり思ってて…っ、でも他の人からは
『そんなの変』って言われちゃって…」


思わずポロリポロリ出てしまった、先日
からずっと気に掛かってた言葉。
もしもこれが普通じゃ無いと言うならば
夏輝さんに無理して合わせて貰ってたり
するのかもしれなくて…

そう考えたら、どんどん不安になって
しまった、その言葉に。


「…あんなぁ…」


呆れた様な秋羅さんの声。
可笑しそうに、お皿に残ってた最後の
一串を口にした冬馬さんがニヤニヤと
私達を見て…何か言おうとした様子を
見せたそのタイミングで、椅子を引き
立ち上がる神堂さん。


「――帰るぞ。咲、美味かった。
ご馳走さま…この礼はまた今度改めて。
今は夏輝と2人でよく話し合え。」


有無を言わさず背を向けた神堂さんを
玄関まで送り…、靴を履かれてるその
後ろ姿を見つつ振り返れば冬馬さんと
秋羅さんももう帰り支度で立ってらして


「馬に蹴られろ、って話だな。」

「え?」

「にゃはは、そんなん今更、もー
とっくに!っつー感じだけどな?」

「お前はな。」

「えーなんで俺だけ? きっかけ俺でも
結局皆で舌鼓打ってたんだろぉー?」

「…まぁそりゃ否めねぇけどよ。」

「だろ?」



「――帰るぞ。」

「へいへい、待ってよ春サマ。
咲ちゃ〜ん? 何処の誰にンな事
吹き込まれたか知んねぇけど必要無い
ケンカなんて、しないに越した事ないん
だよ?」


「――冬馬。」

「あー、ハイハイ。よけーな事、ね。
まぁま甘々のバカップルちゃんは2人で
イチャコラして愛情を深めるとイイよ。
Happy Halloween♡」


軽やかな投げキッスとウインクをされ、
扉が閉まるかと思いきや、また急に
パッと開き。

「あ、咲ちゃん! ――もしも
なっちゃんからのTrick or Treatが
ヤだったら、あのお土産のお菓子で
撃退していーかんねー?」

キシシ!って笑いと共に冬馬さんの
悪戯っ子そのものの笑顔の残像。

でもそれもボコン!っていう硬い靴が
内側から扉に当たる音と共に鳴った、
ガチャリと締まる鍵と同時にシン…と
静まり返る。
残ったのは耳に沁みる静寂。



「――咲?」


優しく、でも低い声で呼ばれた名前。
いつもなら甘い貴方の声が硬さを含み、
私の名を呼ぶ。


「は、い…っ」


声が裏返る。
変な緊張で。


「おいで。」


そう言われ、手を引かれて戻った無人の
リビング…のソファで夏輝さんの、
声よりも硬い膝の上に囲い込まれて。


「あ、あの…っ」
「誰に、言われたの?」

「へ…?」

「ケンカ、しないの変って?」

「あ、う…えっと、こ、こないだ番組で
共演した…人に…。」

「それってWave?」

「へ?? ち、違います!」

「じゃあ宇治抹茶?」

「え、ええ?! 違…っ」

「番組って事は違うかもだけど白鳥くん
とか…相馬さん、とか?」

「や、ややや、全然違います…っ
その、アイドルグループのっ女の子たち
です…っっ」


慌てた私の叫びをどう思ったのか。
夏輝さんは私の肩に額を預け、大きく
溜息を吐いた。


「…情け無い。」


ズキ…ッ!

呟かれた台詞に心臓が軋み上がる。

ドッドッドッと尋常じゃない心音が耳に
響き、他の音が聴こえ難くて…

夏輝さんに呆れられた不安と
自分の至らなさへの後悔で
もう唯小さくなるしかなくって。


*
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