Novel


□ドキドキ狂想曲
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「とにかく水っ、
水飲んで咲ちゃんっ」


用意されてあったミネラルウォーターを
開け、手に持たせるけど危なっかしい。
だから彼女を支えて、今開けたばかりの
ペットボトルを口元に当て溢さない様に
慎重に傾ける。

素直にコク…、コク、と飲み込む彼女。
少しだけ飲み込めなかった雫が彼女の
顎を伝う。


「あ…っ」


無意識に素手でそれを拭おうとして余計
ペットボトルが傾き、より多くの雫が
彼女の胸元を濡らしてしまう。


「 !! 」

「うわ、一磨のエロガッパ。」
「違ッ」

「んぷっ」

動揺して跳ねた手元、跳ねる水。
その口元を濡らした水の勢いに驚いた
彼女は口元を離してしまう。

たぱっ

「あッッ!」


もう、垂れた、なんて状態じゃない
彼女の胸元。…その、ブラウスから
透けた肌の透明感。


その場の全員の視線が…彼女のその、
胸元に集中したのが分かった。

バッ!!


咄嗟に手に取った、
手近にあった誰かの服。

ぽやん、としたままの彼女の胸元に
当てる。…たゆん、と揺れる膨らみ。
その弾力、その温もり。


「あッごめんッ!」


手を緩めると落ちてしまう服、でもまだ
ぽやんとしている彼女の動きは緩慢で。
早く支えて欲しい、自分の手で…いや、
本音ではこのままずっと触れていたい
なんて思ってる俺を必死で押さえ付けて


「え…? あれ…でも服、濡れちゃう…」


そんな俺の葛藤なんて露知らず、彼女は
自分に当てられた誰かの服が濡れるのを
気にして剥がそうとしてしまう。


「…駄目。濡れてるのは君の胸元で
透けてるから。」


冷静にそう言って、服の上から無難な
首元を押さえる義人。

その言葉(…と言うより義人の声?)に
反応してハッとしたように慌てて服を
押さえ、恥ずかしそうに縮こまる彼女。

でもその動きは…別の意味で俺たちを
慌てさせた。

バサッ
バササッ!


重ねて掛けられる彼女のコート、
俺らの上着、服。


「へ?! 」


縮こまった、彼女の膝、脚、腰に。
…つまりは体育座りのように抱え込んで
身体に引き寄せられた脚。捲れ上がった
スカートから見えた彼女の美しい脚と、
真っ白な内腿、その隙間。
…ハッキリと言ってしまえば彼女らしい
パステルカラーの下着まで。

そんな自覚は無かっただろう彼女から
したら、急に皆に大量の服を掛けられ
困惑中。

ハッキリ言うついでに言ってしまえば
俺らの誰一人として女性に免疫が無い
奴なんていない。だから、今更下着位で
騒ぐのなんて馬鹿らしい、と思うのに
そう割り切れないのは彼女だから。


「咲ちゃん、そーいうトコだから。
もうちょっと自覚して。ココは男だらけ
しかもみーんな、お酒も入ってる。
警戒心持たないと危ないよ?」

「へ?? え、…あッ」

「亮太、言い方。…でも正論だ。」

「ご、ごめんなさ…っ」

「…それとも誘ってる?」
「京介ッ!」

「ちが…っ」

「――分かってるから、落ち着いて。」


いつだって冷静沈着な義人。
…その独特な声のトーン。

俺がリーダーなのに、思わず動揺して
しまったって反省と…悔しさ。

だから、必死で理性を総動員させて全く
動じた気配は消してそっと彼女の膝に
乱雑に置かれた服類を整える。


「…その、ごめん…胸元、冷たく無い?
今タオル出してくるから待ってて。
確かバッグに入って…」

「一磨、コレ。――俺のだけど今日は
使ってないから使って。」


投げ渡された亮太のスポーツタオル。
何故かポイポイと翔と京介からも。


「…そんなに要らないだろう」


そう言いながら義人まで。
手渡された4本のタオルを軽く畳んで
彼女の小さな手に乗せる。


「…咲ちゃん、中からもタオル
入れて挟み込んだら乾くの早いと思う
から…」

「あっ、ありがとうございます…っ」

「女子トイレ行く?…って、もう誰も
残って無いから一人で行かすのは…」

「あ、これくらいなら大丈…」
「――じゃないよ? でも無人スタジオ
奥のトイレってのも誰か潜んでて何か
あったら怖いから、ほら、そこ。
試着ブースで拭いておいでよ。」


あれだけ言ったのにまだ無防備な彼女に
痺れを切らしたのか亮太が彼女に皆まで
言わせず奥を指す。


「え、あ…、はいっ」


恥ずかしさかアルコールか、はたまた
その両方か、まだ仄かに赤みが残る顔で
彼女が両手でタオルを抱え試着ブースの
カーテンを引く。

何となく静まり返った部屋の中、彼女の
衣ずれの音と、試着ブースのカーテンの
揺らぎ。

それがまた何とも言えない空気で。


「…な、なんか変に照れるなっ!なっ?!
ッ咲ちゃんが俺らの楽屋で着替え
てるみたいで…っ」

「…男、しかも複数の男共が息潜める中
生着替えって深夜番組のエロコーナー
でしょ。それって。」

「うわー、翔ちゃんのスケベ。」

「エロガッパとスケベ揃いのアイドル
ってどんなだ…」
「「義人ッッ!」」


――もう本当にお前らやめてくれ、
頼むから…っ


その俺の願いは届くのか



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