Event 1

□冬の友
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〜搭乗当日〜


朝からバタバタと準備の確認をして、
山田さんが来るのを待ち、山田さんと
一緒に通常通り仕事へ向かう。
いつもとは違う大荷物。
山田さんの車にトランクを詰め込み、
いつもの荷物は手に持って、車内では
いつも通り本日のタイムスケジュールを
確認。

向かう飛行機が夜の便しかない事から
夕方までは通常通りの仕事が詰まってて
しかも年末だからかなりギッチリ。
道も混んでるしバタバタ移動しながら
テレビ局を渡り歩き、夕方まで。

夕方は夕方で、年末の道はどこも渋滞。
不安になる私。
山田さんは至って普通にクール。


「こんなに混んでて大丈夫でしょうか」

「想定内だ。心配しなくていい。」

「は、はい…。」


事務所で山田さんの車からタクシーに
乗り換え、荷物も全部積み替えて。
山田さんは運転手さんの経験と機転で
無事空港には時間までに着くだろう、
なんて。平然としてて。

…こういう時、山田さんって本当に凄い
って思う。私ならこんな渋滞とかの予測
なんて出来ずに飛行機に乗り遅れるとか
やっちゃいそうだもの。
タクシーの中で眠れそうなら眠っておけ
なんて言われて眠れるのも、山田さんが
落ち着いて居てくれてるから。

一泊とかの短いお仕事なら山田さんは
空港に車を預けることが多いのだけど、
流石に5泊7日ともなれば、そういう訳
にもいかないから。
そんな自分の運転では無いタクシーの
時間も計算して逆算してお仕事を入れて
ちゃんと遅れずに空港まで。

タクシーの中で、また空港からの日程と
お仕事の流れとタイムスケジュールを
確認して、ちゃんと携帯にお仕事予定と
アラームをセットして。
時差があるから飛行機の中でその予定を
更に19時間の時差で確認すると説明も
受け。山田さんの手際の良さに私だけ
のほほんと感心してたりして。

空港では先に来ていたモモちゃんが、
チェックインカウンターで待っていて
山田さんがチケットを渡してる。

その後、何やら山田さんがカウンターで
手続きの書類やら荷物預けやら様々な
事をしてくれてる背中を見つめながら
モモちゃんと2人お喋りしながら待つ。


「さっすが徹平ちゃんよねー。段取りが
完璧。入国手続きの書類は機内で書く
よりも、今カウンターで書いた方が
書きやすいとかも知ってんのねー。」

「そうなの?」

「うん? 機内でも書類配られるのよ。
往路では。でも機内のテーブル狭いし、
色々乗せてると書きにくいでしょ?
それなら乗る前にカウンターで先に
貰っといて書いとくと楽なのよねー。」

「知らなかった!」

「渡航豆知識ね。」

「凄いなぁ…モモちゃんも山田さんも」

「そりゃ咲ちゃんよりも渡航経験
あるもの。それに徹平ちゃんはあの性格
だからね。…じゃあアタシからはコレ。
ミスト化粧水とマスクと、着圧ソックス
それから後でミネラルウォーターを1本
買ってあげる。」

「これ?」

「エコノミー症候群防止とー、乾燥防止
それから喉の保護、ね。行き道だと大体
6〜7時間?掛かっちゃうから。」

「あ、そっか。そうだよね。」

「そうよ〜。そうでなくても時差ボケも
出やすい時間差なのに更に浮腫みや体調
不良起こしてる場合じゃないでしょ?」

「うん。ありがとう。」

「どういたしまして。」


ニコッと笑ってくれるモモちゃん。
やっぱり山田さんとモモちゃんって凄い
…この2人が居てくれるだけで何も怖い
ものは無いって思えちゃうくらいに。
しかも、モモちゃんはどこ迄も女の子の
味方って言うか理解者だから、すっごく
話しやすいし女友達と一緒に居るようで
でも、まるでお兄ちゃんみたいにいつも
頼り甲斐もあって。

私は心底思って言ったの。


「今回のお仕事、モモちゃんが一緒に
来てくれて嬉しい。ありがとう!」

「!」

「…モモ、流石に公共の場でそれ以上の
マネをするとマネージャーとしての俺は
見逃せんぞ?」


モモちゃんが至近距離に近づいてて、
そのいつもは見れない真剣な視線に目を
奪われてた。気が付けば山田さんが私の
直ぐ後ろまで来ていて。

ぼんやりとしてたから何を言ったのかは
聞き取れなかった。


「え、あ、山田さん。」

「…あら、やぁね。咲ちゃん睫毛が
目元についてるわ。」

「あ、ありがとう。」

「…はい、取れた。」


モモちゃんがフッと指先を吹く。
取れた睫毛は見えなかったけど、空港の
床のどこかに落ちたようだった。


「…咲、すまない。お前だけでも
ビジネスクラスに変更出来ないかと今日
ギリギリまで粘ってみたんだんだが今回
席を取るのだけで精一杯だったからな。
座席シートは一応それでもプレミアムに
変更はした。すまないが我慢してくれ。
帰りはビジネスで取ってある。」

「そんな! 充分です。こんな混み合う
時期ですもの。…それに、たった1人で
ビジネスクラスに移されても不安だし…
私は山田さんとモモちゃんと一緒なら
どの席でも大丈夫です。」

「…しかし…。7時間リクライニング
止まりで座りっ放しはなかなかハード
だぞ?」

「大丈夫ですよ。前も乗ったじゃない
ですか。あの時は普通のエコノミーで」

「…それはまだ売れて無かったからな。
今のお前ならビジネスに乗って当たり前
なんだ。…なのにすまん。」

「だから、全然気になりませんって!
もう、山田さん過保護ですよ?」

「そうそう。徹平ちゃん。咲ちゃんも
1人よりは私達と一緒がイイって言って
くれてるんだから。」

「…。」

「何よぅ、その疑わしそうな顔。ね?
咲ちゃん今言ってくれたわよね?」

「はい!」

「…帰りはビジネスだからな。」

「一緒に、ですよね?」

「…ああ。」

「ならいいです!」

「ほら。」


そんな会話の後、私達は手荷物を預け、
出発ロビーへ移動したんだけど、何故か
モモちゃんは上機嫌でニコニコといつも
以上に私に話掛けてくれてて、後ろから
無言で歩く山田さんはいつも以上に容赦
無くその会話に口数も少なく突っ込んで
…どこかいつもと少しだけ違う雰囲気で
私達は特に問題も無く機上の人となった
のだった。




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