Event 1

□アトノマツリ
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やっぱり咲ちゃんは咲ちゃんで

もう仕事も終わって家に帰ってんだから
ラフな格好だってしてただろうに、家の
下まで迎えに行ったらいつもの仕事ん時
のまんまの姿してて。


「あ、冬馬さん!…良かった。迷われて
いるのかと思いました。この辺特徴も
無い住宅街だし…。」


――あ、そっかコンビニ寄ってたから。
あー、しまったいつものクセでちょっと
くらい…て連絡して無かった。
まぁダッシュで片付けからファ○リーズ
までやったから、10分少々の遅れだった
筈だけど…。


「ごめん!…って、まさかずっと外で
待ってた?! ダメじゃん! 女の子1人で
こんな時間に! しかも今はもう普通の
女の子じゃないんだよ?! 」

「え…だって、下りててって…。」


きょとんと俺を見上げる瞳。
全然危機感、感じて無い。

あーもうっ!


…いやいや、本来は俺が遅れて来なきゃ
ヨカッタ話。彼女を責めるのはお門違い
…って解ってるんだけどさ…。


「…うん、ゴメンね? そーだわ。俺が
ちゃんと時間通りに来るべきだった。
でも誰が相手でもこーいう時は家ん中で
待つ事。お日さん暮れたら何処に何が
潜んでんだか判ったもんじゃないからね
…OK?」

「はい。」

「で、渡したい物ってソレ?」


彼女の手には綺麗にラッピングされた…

……あれれ?


「あっ、そうなんです!…これお届け
したくて、秋羅さんに聞いて今夜の会場
まで行こうと思ってて…。」


――あ、それで服そのまんまだったんだ
…ってそんな事より。

彼女が手にしてるお洒落な袋には、一流
ブランドの店のロゴ。

大きさ的にも、ケーキって言うか…
『物』っぽい。そう、袋も中身も縦長で
アクセサリーとかそういう感じ。


…アレ、ケーキは???


袋ごと差し出されたそのプレゼントを
受け取って、しばし呆然とする俺。


「あっ…そう言えば冬馬さん、今夜の
お誕生パーティ…、今から車で行かれる
んですか? お酒とか飲むんじゃ…」


「…何でケーキじゃないの?」


「えっ?! 」

「何で咲ちゃんの手作りケーキじゃ
ないの? 俺だけ。今年もなっちゃんに
上げてたよね? 去年は春にも秋羅にも
…なのに何で俺だけ手作りケーキじゃ
ないの?」

「へ…? え、だって…冬馬さん、今夜
パーティで…パーティ会場には立派な
ケーキも準備されてて…その、手作りの
ケーキなんか持って行っても…」

「って去年言われた? あいつらに?」

「えっ、あの…っ」

「そんで今年はブランド物の、何か?」

「あの…」

「そんなもん、その辺の女の子やファン
だってくれる…何処にでもあるモン、
そんなモンより君の手作りケーキのが
数百倍は嬉しいのに?」

「え…っ、そ、そうなんですか?」


目も真ん丸、口も小さくポカンとして。

――こら、ダメでしょ。
男の前でそんな無防備な顔しちゃ。

そう思うけど、それが彼女だとも思う。

ああ、こりゃ完全にアウトだな。
俺完全に捕まっちまってる。

もう去年からずっと。

今からどう足掻いても…もう後の祭かも
しんねぇけど、ダメだ。諦めらんねぇ。


彼女の甘い手作りケーキも
彼女自身も。


そう、今シッカリ自覚した。

俺、彼女が好きだ。
咲ちゃんが好き。
俺のもんにしたい。
せめてケーキだけでも、今夜だけは。


今日は誕生日だし、
ねぇ、俺のワガママきいて?




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