Event 1

□アトノマツリ
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「え…えっと、じゃああの、今から
作って…、ちょっとお時間掛かると思う
ので、えっと、その…上がって待たれ…
ます?」

「実家に?」

「ぅあ…えっと、じゃあ出来上がったら
連絡するので…それから取りに来て…」

「それこそお家の人に心配掛けちゃうん
じゃない? 明日も仕事なのにさ。」

「え、じゃあどうしよ…」

「俺ん家で作ってよ。幸い最新システム
キッチンでオーブンから何から揃ってる
から。…材料は買ってかなきゃだけど」

「え、冬馬さんの家で、ですか?! 」

「うん、嫌?…でもそれなら行き来する
時間省けて俺も助かるんだけど。」


――それは方便。俺この位の時間なんて
まだ夜の街フラフラしてるのいつもん事
だし、別に真夜中でも俺はヘーキ。

でもきっと、彼女ならこう言えば


「…あハイ。じゃあ…今から作ります!
えっと材料と…器具とかは…あります?
ボウルとか泡立て器とか大さじ小さじや
粉振るいとか…」

「無いなぁ…基本自炊全くしないし。」

「ええっ、最新設備なのに勿体無い!
…えっと、じゃあこの時間だったらまだ
大きなスーパーなら、全部揃うかも…
自宅じゃないので勝手が違うから簡単な
ものしか作れないけどイイですか?
えっと、家にある物は持って行って…」


そうやって踵を返しそうな彼女を止めて

…危ない危ない。このまま家に帰って、
家族にでも話されたら我に帰って俺の家
になんか来てくんないでしょ?


「イイよ、買いに行こ。咲ちゃんの
実家に俺のワガママで迷惑掛ける訳にゃ
いかないし。」

「え、でも勿体無く無いですか?
普段使わないのに…。」

「じゃあまた咲ちゃんが俺ん家来て
作ってくれればほら、万事オッケー!」

「…ぷ、もう、冬馬さんったら…。」


ニコニコ上機嫌の俺のカオ見て、彼女も
笑顔。…んね、これって脈アリ?

いやいや、天然な彼女の事だからなー…
そう思いつつも、もうニヤケ全開の俺。

コレ、今もしメンバーが居たら完全に
彼女から隔離されてると思う。

でも今俺、彼女と2人きりで。


コレって神サマからのプレゼント?
去年から引き摺ってた念願の誕生日を
遣り直しさせてくれるって?

きっと彼女の常日頃の行いが、去年の
行き場を失った誕生日ケーキの妖精に
力を貸したんだ。…なんてメルヘンな事
すら思うほど浮かれて。


へへ
エヘヘ…


彼女が俺ン家で手作りの誕生日ケーキ。
これが幸せの一コマで無くて何だ。

それがまだ彼女が『俺の彼女』になって
なくても、ソレはソレ。

あ、ついでに可愛いエプロンも買おう。
彼女に似合うヒラヒラふわふわの。
そんで腰の後ろのリボンふわふわさせて
作ってくれる後姿見つめるんだ。


遊びの女は入れた事の無い今の俺の家。

以前住んでた家は連れ込み放題だったん
だけど、ちょっとストーカーっぽく家に
通う子が出て来ちゃったから、早々に
引っ越して。

もう今の家になって2年以上?
メンバー以外連れ込んで無い。
メンバーに連れ込んだ、なんて言ったら
すっげー嫌そうな顔されっだろうけど。

そんな家に咲ちゃん。
今までメンバーと一緒なら1回…いんや
2回?…来たっけ?

そう、ゲリラ豪雨でにっちもさっちも
いかねぇな、ってなったあの夏の日の
雨宿りと。

それから皆で飲んだ打ち上げの後、何を
思ったのか実家からアホほど送られて
来てた梨を分けて持って帰って貰うのに
立寄って、あの場で5個程彼女に剥いて
貰ってそのまま食って…。

そん時くらい?

基本酔い醒ましは夏輝の家だからな。


でもそんな彼女が俺の家。
そんで俺の為の誕生日ケーキ。


俺だけの為の。




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