Event 1

□不機嫌な彼
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もちろん、一番の天敵:京介はスグに
気付いた。俺が、いつものように楽屋に
挨拶に来た彼女の隣に自然に座り、茶を
渡し、気の置けない会話をし出したら
スグ、目を丸くして。

義人はその場で気付いたのか、それとも
後で気付いたのかは分かんないけど、
いつの間にか『やっぱりな』的な雰囲気
になってて。

問題は一磨と翔。

一磨は鈍くは無いんだけど、あいつ、
頭固いから『まさか』と思うとなかなか
覆せないみたいでさ。

『まさか』咲ちゃんが、
『まさか』俺(亮太)と。

そう思い込んで、何度も何度も
さり気ない(つもりらしい)振りで俺らに
『まさか…違うよね?』みたいな話を
振ってきて、咲ちゃんの、あの
素直な反応に見事玉砕。

真っ赤になった咲ちゃんに驚いて
何で一磨まで赤くなるんだよ!って
思わず突っ込みたくなるほど赤くなって
(嫌々)納得したみたいだ。
…でも、未だに何処か“逃げ”を残して
置きたいのか、あまり深くは追求して
来ない。

問題は激ニブ翔。
わっかり易くあいつの前で咲ちゃんに
ほぼ密着して座ったりしてやってんのに
「亮太! 近過ぎだろ!」なんて俺を
押し退けようとしたりして。

咲ちゃんに「ゴメンね、京介も
亮太も女の子との距離可笑しいんだよ」
なんて誤解を生むような事言ったりする
もんだから「俺がパーソナルスペースに
入り込むほど近いのは、後にも先にも
咲ちゃんだけだろ。翔ちゃん、
その目は節穴なの?」なんて俺にズバリ
言わせやがってさ。
そんなんで真っ赤になった彼女見て、
漸く「えっ?! 」って思った様だった。

…幾ら何でも鈍過ぎるでしょ。

ちょっと咲ちゃんもそんなトコ
有るけどさ。
…なんなの? 天然国のヒトは皆あんな
鈍ちんなの? それってどう言う理由?
それにさ、他の奴も自分と同じく鈍いと
思ってんのかな?

思わずそんな嫌味も言いたくなる。

彼女は彼女で、俺らの関係が彼氏彼女に
なっても相変わらず遠慮しぃでさ。

…まぁ、自分のオトコになった途端、
図々しく我が物顔で振る舞う女なんて
御免だけど、彼女にはもう少し、こう…
なんて言うのか、独占欲を出して欲しい
なんて思う自分が居る。

そのクセ、俺が他の女の子(冠番組の
ゲストとか)といつもの調子で話してる
様子を見て、ちょっと複雑そうな表情
しながらも一生懸命、何でも無いって
フリしてんのが…つい可愛いくて萌え、
だとかってSっ気自覚しちゃうじゃん。

どーすんの?
そんな思いも寄らない自分まで発見
させて。

俺…今までの彼女には、あんまり束縛
しなくて(されるのが嫌だからしない
だけなんだけど)結構淡白な、意外な程
オトナの男って言われてたのに。

咲ちゃんに関しては違うんだ。

彼女が他の男見るだけでも嫌。
話したり触ったりなんて言語道断。

…だけどそんな事言わないけどね。

だって、言っちゃったら彼女をこの先
監禁して俺の部屋から一歩も出さない、
って方法しか無くなるじゃん。

そりゃ法的にも彼女の気持ち的にもOK
ってんなら、吝(やぶさ)かでも無いけど
そんな事した俺らの未来には明るい幸せ
なんて望めないだろうし。俺的には
彼女とは大手を振ってお日様の下、
幸せな家庭を築いて一生仲良く、
メデタシメデタシなハッピーエンドを
希望だからさ。

そんな病みフラグは立てたくないし、
要らない。


だから、今は…一人で小さな事務所を
背負って超多忙な彼女が、俺だけの為に
仕事上がりの疲れた身体を押して俺の
マンションに来て待っててくれてる、
それだけで満足。

他の男(JADE)とベッタリ仕事(ライブ)
して来ても…今日、この日だけは彼女は
俺の為だけに側に居てくれる。

それだけで。


嫌で嫌で仕方なかった最悪な日が、
待ち遠しい最高な日になるなんて…
自分でも現金だなって思う。


咲ちゃんが去年俺に言ってくれた
言葉が、俺を雁字搦めにしていた呪縛を
解いたみたいだ。


『世界中の多くの人が
幸せな日に生まれたんだね。』


過去の思い出に縛られて、大嫌いだった
クリスマスイブの誕生日。

あの日、それが初めて…バカップルの
イチャイチャするだけの単なるイベント
でしか無かった日が、特別になった。

あくまで自分主体な『俺のこの幸せの
お零れで、少しでも世界平和になります
ように』なんて不謹慎極まりない特別
だとしても。

呪うんじゃなく、幸せを祈れるくらいに
幸せを感じる日に、彼女がした。


彼女は今、約束通り俺のセカンドハウス
に居て、俺の為のパンケーキを焼いて
くれてるハズ。

あの温かで甘く柔らかな。
彼女のようなパンケーキを。


急いで帰ろう。
彼女の元へ。


あいつらにこの気恥ずかしい想いを
悟られたくなくて、わざと作ってた
不機嫌な俺。

バレバレなのが悔しいけど、
でもそんな俺も嫌いじゃない。



さぁ、帰ろう。







『お帰りなさい! 亮太くん!』



あの笑顔の元へ。








Happy Birthday RYOTA!
2015.12.24 xxx








end.

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