Event 1

□敬称略のラプソディ
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「でもさぁ、正直参ったよね、
咲ちゃんには。」

「へ?」

「こら、『へ?』とか言わない。
女優さんが。」

「あっ、」


京介の呟きにキョトンとした顔で返した
咲ちゃん。そんな彼女の返答に
いつもの亮太の返しが飛ぶ。


「もしも一磨が『じゃあキスして』って
言ったらどうするつもりだったの?」

「へっ?! そんな、まさか一磨さんが
そんな事言う訳ないじゃないですか!」

「やだなー、咲ちゃん。
男を分かってないなァ?」

「え、あのっ、京介くんっ?! 」


そんな事を言いながら自分から彼女へ
距離を詰めてくる京介に、タジタジの
咲ちゃん。


「言う訳ないだろ! 収録中だぞ!」


思わずそう怒鳴って、京介の肩を掴み
彼女から離す。

すると、ふふんと鼻を鳴らし、俺を
見上げた京介は意地悪く目を細め。


「『収録中だぞ』? じゃあ、収録後の
今なら何オネガイすんの? 一磨。」

「えっ?」

「あ、一磨さん、
何か私に出来る事があれば…」


――だから、そんな顔でダメだって!!


彼女の…可愛らしい上目遣いで小首を
傾げたポーズに俺の方が思わずタジタジ
となってしまう。


「『呼び捨て』」

「え?」


そんな及び腰の俺の後ろから掛けられた
声は、義人。

彼女だけで無く、俺もキョトンととした
中、亮太のハッキリとした滑舌がそれに
同意する。


「それ良いかも! ずっと実は一磨、
咲ちゃんが自分だけ『さん』呼び
なの、気にしてたろ?」

「えっ?! 」

「あっ、ち、違うから!」

「いやいや、してた。」
「うん、してた。」
「してたしてた。」

「お前ら!」


面白がって同意を被せるメンバーたち。


――お前ら良い加減にしろ!

そう思うも、京介も亮太も目は完全に
ニヤニヤと嗤ってて、義人ですらもう
どう見ても面白がってる。
翔だけは本気でそう思って言ってる
っぽいけど。

そんな奴らの様子に困ったのは俺よりも
咲ちゃん。

あわあわした様子は…まるっきり昔の
まんまの彼女で。


……クスッ

そんな様子の彼女を見たら出てしまった
笑い。

可愛くて、仕方なくて。

だから、またいつもの様に彼女の保護者
買って出て。


「こら、咲ちゃんを困らすな!」

「え、一磨イイの?
折角のチャンスなのに。」


――そりゃ、正直に言えば
彼女に呼び捨てされてみたい。

…でもそれは、こんな風に揶揄われて
皆の前で無くて。


「それはその内追々に。」


そう言って彼女に笑い掛け、皆から
彼女を離したら。


「 !! …〜〜〜〜〜〜ッ
かっ、か、一磨………さんっ、
コレ、誕生日おめでとうございます!
わ、わたしっ、お父さんが近くまで
来てるってメールがあったからもう
帰りますね…っ!」


そう言って、何か袋ごと手に押し付け
られて。恥ずかしがって真っ赤のまま
ペコリと頭を下げ楽屋を出て行く彼女に
唖然として。


「あーらら、帰っちゃったよ…。」

「追いかけないのかよ!」

「廊下で追っかけっこなんてしてたら
明日にはWebニュースの餌食だぜ?」

「お父さんが相手じゃ、いくら何でも
奪還出来ないしね。で、何貰ったの?」


ツイ、と亮太に指差され、袋の中を確認
したら、それは以前彼女に話した絶版の
古いミュージカルのDVDで。


「何コレ。」

「俺が探してた絶版のDVD…。」

「……へぇ。それって、すっごい
探したんじゃない?」

「あ、そー言えば、ずっと前隼人さんに
絶版の映像を探す方法訊いてたなー。」

「えっ、それってかなり前の共演作?」

「じゃあずっと探してたんだ?」

「…っ」

「咲ちゃんらしいや。」


――確かに俺もそう思う。

彼女らしい。

でも、何とも思わない男にここまでする
だろうか。こんなに手間の掛かる物を
わざわざ。


彼女に貰ったのは

ずっと探してた絶版のDVDと

希望。


ほんのりとピンクに染まった彼女の頬。

それと同じく俺の心に蕾を付けた
恋の花。

それが開くか開かないかは
俺と彼女次第。

手始めに、敬称略から始めてみようか







Happy Birthday KAZUMA HONDA!
2016.01.16 xxx







end.

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