Novel


□お姫様と王子様
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【 お姫様と王子様 】

夏輝 side


咲ちゃんは可愛い。
そりゃアイドルとしてスカウトされる
くらいだから、見た目はもちろん、
スタイルだって、いい。

その上、あの優しいトーンの
透き通った声で一つ一つ丁寧に
相槌を入れてくれて
時には首を傾げて…
時には頬を染めて、
基本いつだってにこやかに
相手の話を聞いている。

自己主張があまり得意ではない
咲ちゃんは自分から話すより、
人の話を聞く方が好きらしい。

俺だってウチの春だって
全然話すより聞く側だけど、
あんなに相手に気持ち良く話させるのは
一種の才能だと思う。

あの穏やかな性質は…
この煌びやかさの裏で殺伐とした
芸能界では希少価値のオアシスみたいだ

…俺だってそうなんだから、
他の奴が惹かれるのはわかる。
頭では。

でも、なんなんだ?
この誘蛾灯に誘われた虫のような状態!


とある音楽特番の収録現場。
年末特番に向けての長時間収録だから
多忙なミュージシャン達が入れ替わり
立ち替わり出入りしている。

ある程度年季の入って来た俺らJADEの
待機時間は他のミュージシャンに比べて
長くはない。

春のプロデュースでデビュー直後から
ヒットを飛ばし続けている咲ちゃん
だけど…まだまだ新人だから、
山田さん指導の元、早くから
現場入りして出入りするスタッフや
ミュージシャン達に挨拶周りをしてる
らしい。

でも、あれって…
単に挨拶で小話をするにしては
群れてないか?

周りには今回クリスマスソングを
新曲発表してるトップアイドル
Waveメンバーが眩い衣装で揃い踏み、
彼らと同じ事務所の人気デュオや、
今人気絶頂と言われる韓国のイケメン
ユニットやら、この冬休み話題映画の
主題歌を歌う俳優らしき人物まで
咲ちゃんを囲んでいる。

合間合間に今回MCの宇治抹茶の二人が
ちょっとした休憩にかこつけて
茶々入れに入る。

蠢く『蛾』達の隙間から小柄な
咲ちゃんの姿や衣装が見え隠れ。

現場入りした俺達の楽屋に来た
打ち合わせスタッフが、不明点の確認で
プロデューサーの元へ向かったのに
ついて来た俺は、スタジオ入口から
舞台袖で群れられた咲ちゃんに
すぐ目を吸い寄せられていた。



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