Event 1

□夏の友
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【 夏の友 】


今年の夏は忙しかった。

有難い事にデヴューしてまだ2年なのに
神堂さんにプロデュースして頂いた
おかげで…また新しい曲も提供して
頂けて、夏フェスやその他のイベントも
沢山声を掛けて頂いて。

本当に光栄で有難かった。

もちろん、こんな身に余る活動をさせて
頂いてて不満なんか無い。
もっともっと頑張って、皆さんのご厚意
には働いてお返ししないと!って思って
いる…のだけれど。


「水着、着たかったなぁ…。」


つい、呟いてしまった一言。
うちの事務所は別に水着NGじゃない。
でも、歌手として売り出す方針だから
あまりそういう露出はしないらしい。

だから今年、水着を着たのは1回だけ。
とある新作水着コレクションのモデルの
オファーを受けて、着た、あの1回。

しかもとっても可愛い水着だったから
しっかり買い取りさせて貰って。

そのショーでメイクを担当してくれてた
モモちゃんのお墨付きも貰ってたのに。


「あら、なぁに? 咲ちゃん今年
海にも行けて無いの?…まぁ行けても
顔指されちゃうから国内じゃゆっくりも
出来ないしねぇ…。」

「うん…こうなっちゃったら前みたいに
市民プールも行けないし…。」

「市民プール?! ちょっとー駄目よ!
そんな事したらパニックになるわよ!」

「え…まさか〜…。うん、でもプールに
迷惑掛けちゃう訳にいかないよね…。」

「あのねぇ…そういう問題じゃなくって
…って言っても分んないか…。」

「え?」

「いいの、いいの!…でももう夏も
終わっちゃうわよ? 今度の近いお休み
にでも一緒に行く?」

「ほんと?! 行きたい!」

「OK!…んじゃ咲ちゃんのお休みは
…8/29,30?徹平ちゃんに言ってもう1日
追加させて貰っちゃいましょ。それで
近場の海外なんてどぉ?」

「きゃー!行きたい!ありがとう!
モモちゃんも予定がある筈なのに!」

「いーの、いーの。ついでにメイク道具
仕入れちゃうから!」

「ホント?…ありがとう!」

「うふふ、イ〜イ笑顔!
この笑顔見れただけで充分だわ。」


こうして近場の海外へ、今年最後の夏を
堪能しに行く事になったのだった。





***




「え…っ…駄目になった…?
そっか…うん…ううん、大丈夫!
モモちゃん気にしないで?
うん、また…行こうね…?」

「どうしたの?」

「あ、ううん、何でも無いんです。」

「…ってカオじゃねぇなぁ〜?
お兄さんたちに話してみ?」


その電話は丁度、今度のライブゲストで
JADEの皆さんとコラボ曲をやる事に
なってて、その打合せと音合わせをして
いた日の休憩中。

モモちゃんからの着信にてっきり今度の
旅行の詳細だと思って、ウキウキして
出たら…キャンセルの電話で。
電話口でも、モモちゃんが物凄く申し訳
無さそうにしているのが分かったから
何でも無いように明るく言ったつもり
だったんだけど…。

切っちゃった後は…ガッカリしたのが
顔に出ちゃってたみたいで。

慌ててニッコリ笑ってみたんだけど、
一部始終見られていた皆さんには完全に
バレバレ。


「あの…今度のお休み、モモちゃんと
一緒に海外旅行に行くつもりだったん
ですけど、モモちゃんに急なお仕事が
入っちゃって…。」

「あー、ポシャッちゃったんだ…。」

「はい…。あ!でも、旅行はまた行けば
いいから、大丈夫です。」

「何処へ行く予定だったの?」

「あ…モモちゃんが今回全部、手配して
くれてて…近場の海としか…。」

「海? ダイビングとか?」

「あ、いえ、そこまでするかは…。
ただ、その、私が今年海どころか水着
着て無くてそれを着たいってだけだった
から…。」

「えー! 咲ちゃんの水着姿?!
うっわぁ〜!見たい見たい!!」

「と、冬馬さんっ、
そ、そんな大したものじゃ…!」

「なー? 見たいよなぁ?
可愛い咲ちゃんの水着姿!」

「…お前のその発言はセクハラだから。
ちょっとは慎め!」

「えー? じゃあなっちゃんは見たく
ないの?…咲ちゃんの水着姿。」

「っば…!」

「うっわ、やらしー!
なっちゃん真っ赤じゃん!」


夏輝さんの顔が真っ赤になって、私も
ついつい赤くなってしまう。


「ち、違うから! 咲ちゃん!」

「だ、大丈夫です!誤解してません!」


「…騒がしい。」

「あぅ神堂さん…。」

「何やってんだお前さんたち。」


神堂さんと秋羅さんが煙草休憩から今
戻って来られて。真っ赤になって2人で
ワタワタしている私と夏輝さんを不思議
そうに見てる。


「咲ちゃんがさー水着着んのに計画
してた海外旅行がポシャッたらしくてさ
見たかったなーって話。」

「何のこっちゃ。
…兎に角旅行が駄目になったのか?」

「あ、はい。その…モモちゃんが急ぎの
お仕事が入っちゃったので…。」

「それいつ?」

「え? 8/29〜31ですけど…。」

「なぁ、確か今度のスチルって
その辺りじゃ無かったか?」

「ああ、変更になってたな。」

「あ、そうだ、確か8/29ドンピシャだ」

「お、ラッキー!咲ちゃんも海外の
つもりだったって事はパスポートとか
全部準備オッケーなんだよね?」

「へ?…ええ、まあ、はい?」

「一緒に行こ!」

「え?…えええ?! 」

「咲ちゃんは水着が着れて、お休み
無駄になんない、俺らは可愛子ちゃんの
水着が見れてラッキー! 仕事も捗る。
ほらオールオッケー!」

「え、でも、お仕事のお邪魔になるん
じゃ…。だって撮影ですよね?」

「大丈夫だよ。ジャケ写だけだから
そんなに時間掛かんないし。…あ、勿論
咲ちゃんが嫌で無ければだけど。」

「そんな! 嫌だなんて!
お邪魔じゃ無かったら是非!
ご一緒させて下さい!」


…その瞬間、冬馬さんが小躍りした様に
見えたのは…気のせいかな…。





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