Event 1

□Herzlichen Glückwunsch zum Geburtstag!
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【 Herzlichen Glückwunsch zum Geburtstag! 】
(ヘァツリッヒェン グリュックヴンシュ ツム ゲブァツターク!
:ドイツ語で誕生日おめでとう!)



今日は彼の誕生日。
私と付き合ってからは2回目の。

去年の誕生日、色々探して…沢山悩んで
それでも決まらなくて。
もう日が差し迫った数日前に、結局彼に
何が欲しいか訪ねたのだった。


『君が。』


あなたが一番喜ぶものを差し上げたいの
だと言った私に、真っ直ぐ目を見てそう
呟いた彼。


『…え?』

『君が欲しい。…駄目だろうか。』

『え、あの…わ、私、ですか…?』

『ああ。君を…俺だけのものにしたい』


真っ赤に染まる、顔、首…耳。
私はもう全身が心臓になったみたいで。

彼の誕生日をまーくんから聞いた時から
彼が何を喜ぶのかで頭がいっぱいで。

普段のレッスンの時も、新曲の音合わせ
でも…彼の何気ない仕草から、彼の一番
喜ぶもの、好きな物を探していた。

神堂さんは私のプロデューサーで、
それ以上に最も尊敬する人で。

それが恋だとは思いたくなかった。

だって、それはあまりに身の程を知らな
過ぎる。

天下のJADEのカリスマボーカルの
神堂さん。

私はまだデヴューして1年足らずの新米
でしかなくて。ヒットした曲も明らかに
神堂さんの力によるもので。

あの神堂さんが初めてプロデュースした
っていうのが注目の的で。
もちろん曲も素晴らしい。流れるような
メロディは静かで穏やかなのにとても
ドラマティック。…それを少しでも表現
出来るように一生懸命努力はしている
けれど。

そんな、駆け出しの私が神堂さんに恋、
なんて!


…そう思っていたのに。


あなたはそんな何も持たない私を欲して
くれるの? こんな私を?


思わず涙ぐんだ私を神堂さんは静かに
抱き締めた。


『…駄目、だろうか…。』


いつも迷いの無い彼の自信無さげな言葉
…こんな彼の声は聞いた事がなくて。


『そ、そんな…そんな事ないですっ!』


精一杯顔を上げ、彼の目を見て言った
言葉は否定形への否定で。

つまりはYES。

私は勇気を総動員して彼に伝えよう。
この胸の奥に隠そうとしていた恋心を。


『し…神堂さんが好きです…っ。
神堂さんのお、お誕生日に私を…
受取って頂けますか…?』

『…喜んで。』


優しい目をした彼から温かなハグ。
とても温かくて、幸せな、ハグ。


だけど、それからは私の決死の努力の
日々。モモちゃんに紹介して貰った賞を
取った最高のエステティシャンの方に
肌を磨いて貰い、ネイルもケアして、
髪もモモちゃんに特別ケアして貰って。

寝る前にはいつものストレッチとはまた
別に引き締め体操。それから自分でする
マッサージ。目のクマなんか出ない様に
目の周りも念入りにマッサージして。

罷(まか)り間違っても風邪とか引かない
ように寝る時のマスクも加湿器もいつも
よりも念入りにチェックして。

そうして、たった数日で出来る限りの
準備をして。

モモちゃんが山田さんを説得して手配
してくれたお休みも有難く頂いて。

11月6日の夜にJADEスタジオを1人
訪ねたのだった。


前以て神堂さんにメールはしていたから
守衛室のおじさんも何も言わずに通して
くれて。私はドキドキしながら階段を
駆け上がった。

いつものミキサー室で無く、スタジオの
ピアノの前に1人座る神堂さん。

その姿は何処か神々しくて。

私は弾む息を抑えながら、スタジオ扉の
小窓から彼の姿を覗き見て…もうただ
それだけで、抑えた息すら押し出して
心臓が飛び出してしまいそう。


ドキドキしながら、扉に手を掛ける。

力を掛けても居ないのに、扉がスッと
押し開かれ、骨張った指が私の手を捕え
引き込んだ。


『…来ないかと…。』


メールを入れたのは昨日。
仕事が終わった時間を想定して時間を
彼に伝えていた。その時間からそんなに
遅れていない筈。


――それ程待っていてくれたって事?

それ程までに私を
欲しがってくれてたって…こと?


身の内を震わす悦び。


緊張や張り裂けそうなドキドキもその
悦びの前には大した威力も無く。

私は彼の腕の中に自ら飛び込んだ。


『私を…神堂さんの…
あなただけのものにして下さい。』


そう言って。



それが、そう1年前。





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