Event 1

□Pocky
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【 Pocky 】


11月11日はポッキーの日。
私は今期のCMキャラクターのポッキー
ガールとしてキャンペーンに参加して
いた。彼方此方を廻ってポッキーを配り
歩き、ポッキーダンスを歌って踊った。

沢山の人達が一緒に歌ったり踊ったり
してくれてとても楽しい1日となった。

…明日は筋肉痛だろうなぁ…。
って言うか、既にもう太股やお尻の辺り
痛い気がする…。
中腰で踊るダンスは思った以上に太腿や
お尻の辺りの筋肉にくるみたいで、これ
シェイプアップ効果あるかも。なんて
思ったりして。

そして1日たっぷりのロケの後、私は
今日一番大切な大イベントを成功させる
ために夕暮れからもう夜にさしかかって
いる道を急いでいた。

大好きなあの人の居るJADEスタジオに
向かって。

…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…

なだらかに続く坂道を早足で歩く。
車だとあっという間の道程も歩き、
しかも私の足だと結構な時間が掛かって
しまう。

でも、今日はロケが何時に終わるのか
全く読めなくて。
だから、ちゃんとした約束も出来ず…
でも、夜にはお家に行くっては伝えて
あるんだけど。でも、少しでも早く長く
あなたに逢いたくて。

私は長い坂を一生懸命に登った。




「あっれぇ〜? 咲ちゃん!」
「え?」
「…どうした?」

「電話すりゃ迎えに行ったってのに。」

「えへへ、来ちゃいました!」


そっとスタジオの小窓から覗くと直ぐに
気付いた冬馬さん。皆さんもうそろそろ
終わり支度をされていたみたいで、
楽器を仕舞いながらこちらを振り向き
迎え入れてくれる。

私はそんな様子が嬉しくて、間に合った
のも嬉しくて。
ついニコニコと満面の笑み。


「今日、ポッキーカーに乗って彼方此方
営業ロケだったんじゃないの?
わ、凄い汗。…走って来た?」


夏輝さんがタオルで頬から首元まで伝う
汗を拭いてくれる。


「す、すみません! こんな時間だし、
皆さんが帰っちゃったらどうしようかと
思って。」

「だから電話しろっつったろ。」

「だって、驚かせたかったんだもの。」

「全く…。」

「まぁまぁ。可愛いじゃないの。
愛しのダーリンのためにわざわざこんな
辺鄙な丘の上まで駆け付けて来てくれた
んだろ? 俺のためにさっ」

「えっ?」

「チョーシに乗んな。」


ゴチッて硬い音がして、私の肩を抱いた
冬馬さんが床にしゃがみ込む。


「っテェ〜〜…ッ!」

「え? え? 冬馬さん?! あ、秋羅さん、
冬馬さんに何かっ」

「何もしてねぇっつの。ちょっと軽く
小突いただけで大袈裟だろ。」

「何が軽くだ! 超痛ぇじゃん!
お前アレだろ、なっちゃんが咲ちゃんの
汗拭いたり俺が肩抱き寄せたりしたのが
気に入らなかったんだろ。汗は俺じゃあ
無いっつーの。なっちゃんにしろよ!」

「…当然だろうな。」

「五月蝿ぇよ。」

「くっくっくっ、まさかあの秋羅が
こんな風になるなんてね。」

「夏輝!」

「はいはい。…じゃ皆解散しよっか。
咲ちゃんはゆっくりしてって?
秋羅とね。」

「…っ!! 」


夏輝さんの含みのある艶やかな笑みに
一気に赤くなる私。
それを見て冬馬さんはニヤニヤ。
気のせいか神堂さんまで微笑んでる気が
する…。チラリと横目に見てみると、
秋羅さんは仏頂面。…でも耳がほんのり
赤い。


「五月蝿ぇな、お前ら早く行け。」

「アラ、秋羅さん?
スタジオでエッチぃコトしないのよ?」

「するか! お前じゃあるまいし。」

「…冬馬?」
「……。」

「し、してねぇっつの!もう最近は!」

「お前…。」

「スタジオは部外者は立ち入り禁止だ。
…そう前にも言ってあった筈だが?」

「やや!だから、言われてからはもう
連れ込んだりしてねぇって!」

「本当だな?」

「ホント本当っ!」

「…全く。」

「…とんだトバッチリだぜ。」

「自分で蒔いた種だろ。」

「酷ぇ!元はと言えばお前が…」

「あーもう。ほら、帰るぞ!」


夏輝さんが冬馬さんを引っ張ってって、
皆さんがドアに向かおうとした所を見て
慌てる私。


「あっ! 皆さん待って下さい!」

「え?」
「あ?」
「…どうした。」

「あ、あのっ、これお土産なんです!」


手提げの大きなバスケットの蓋を開ける
…と、そこには大量のポッキー。


「うわ、凄いね。色んな種類がある。
え? コレなんて見たことないや。」

「うふふ、限定ポッキーです!
あ、神堂さんは未来ちゃんや弟君たちに
沢山持って帰って下さいね?」

「…有難く頂こう。」

「って言うかお前、こんな籠にこんな
大量の菓子詰めてこの坂道を歩いて来た
のか。…阿呆が、重かっただろうに。」

「…大丈夫ですよ? だって、皆さんに
早く見せたくって!」

「ったく…。」

「あっれぇ?咲ちゃん、このカゴ
って今日のキャンペーンで赤ずきんの
カッコした咲ちゃんが配る時
持ってたヤツ?」

「あ! よく分かりましたね?
そうなんです! あまりに可愛いカゴ
だったから、頼み込んで買取しちゃい
ました。 丁度5人分位のお弁当も入るし
皆でピクニックに行きましょうね。」

「やったぁ! 咲ちゃんの手作り
弁当でピクニック! んね、いつ?
いつにする?」

「あはは、やだもぅ!冬馬さんったら
子供みたい。はしゃぎ過ぎです!」

「えーだって嬉しいじゃん。俺の嫁がさ
美味しい弁当を俺の為にこさえてくれる
んだぜ? 萌え萌えしちゃわない訳ない
っしょ?」

ぎゅうっ

冬馬さんの大きな手が私にハグ。
…すると思ったその瞬間。

グイイッ

長い指の節立った一方の手が冬馬さんの
頭を押さえ込み、もう一方の腕が私を
囲い込んだ。ふっと香る彼の煙草の香。

大好きな彼の匂い。



*
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