Event 1

□いい夫婦の日
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【 いい夫婦の日 】


夫婦喧嘩をした。
理由は些細なこと。


「もうっ! 冬馬さんのバカっ!」


双子の子供達も、もう高校生で大きいし
下の子はお腹の中だから荷物を持って、
身ひとつ(ふたつ?)で実家に帰った。


「あれぇ? お姉ちゃん帰ってるの?」


廊下でまーくんの声がする。
玄関の私の靴を見たのだろう。


「…うん…。」

「あれ? 何? どーしたの。
お義兄さんと喧嘩でもした?」

「…何でもない。」

「ふぅん? 双子は?」

「メールしてある。」

「そっか。じゃあもうゆっくりして
行きなよ。久々にお姉ちゃんの手料理
食べたいしさ。」

「まーくん…聞かないの?」

「聞いて欲しいの?」

「…やっぱりいい…。」

「ふぅん? 今日は仕事も持ち帰って
無いし、何時間でも付き合うよ?
あ、でもお姉ちゃんが起きてられないか
…今、すごいんでしょ? 眠気。」

「そうなの。ちょっとだけ、と思って
横になったらもう夜まで眠っちゃって
…自分でもどうかと思うよ。」

「赤ちゃんが育ってる証拠なんじゃ
ない? 触ってもいい?」

「うん。」


まーくんの優しい大きな手が迫り出した
お腹を摩る。


「おーい、叔父さんだぞー?」

「ふふ、まーくん擽ったいよ。
あ、蹴った!」

「ホントだ! 僕のこと解るのかなぁ」



「いくら仲良しでもそれ以上
イチャイチャしないでくれる?
俺の嫁だから。」

「っ!」
「義兄さん。」

「何で実家に帰ってんだよ。
こんな重い荷物まで持って。
生まれたらどーすんの。」

「まだ生まれないもん。7ヶ月だし。」

「もー、そーいう問題じゃないだろ?
心配すんだろーが。」

「冬馬さんが心配なのは私じゃない
でしょ? エリカちゃんじゃない。」

「えっ、まさか夫婦喧嘩って義兄さんの
浮気?! とうとう?!…悪いけど冬馬さん
そんなんでお姉ちゃん泣かせんなら
もうそっちには帰さないからねっ!
春や夏輝さんや秋羅兄さんにも直ぐに
連絡して絞めて貰うからなっ!」

「っ! まーくん違っ…!」

「…あのなぁ…。そんな訳ないっしょ?
俺が咲以外の女にゃもう全く食指も
ナニも動かないのなんて皆知ってんだろ
って!…てか、真の心の底ではまだ俺、
信用されてなかったんだ…。
何気にそっちのがショックぅ…。」

「と、冬馬さん、違…!」

「いー加減にしろよ。」

「あっ、秋羅兄さん、ちー、ひー。」

「まー兄ィ、ひーはヤメろって!」

「秋羅さん…。」

「家飛び出たって? 双子がウチ泊めろ
って押し掛けて来やがってな。
ま、それは構わないんだが、どーした。
咲ちゃんがそこまで強行に出るの
珍しいだろ。話してみ?」

「…冬馬さんが…私がコンセントを
抜いちゃったのが悪いんだけど…」

「「コンセントぉ?! 」」

「ぅ…ハイ。お掃除してて躓いちゃって
抜けちゃって…そしたら大事なゲームの
データが飛んじゃったらしくて…
『俺の大切なエリカちゃんがあぁ!』
って怒るから…。」

「…それってアレか、ヤキモチ?」

「…う…。」

「マジでー? 母さん止めてくれよー」
「……ママ…。」
「お姉ちゃん…。」

「あんな、咲ちゃん。」

「おわ! 何言う気だ秋羅っ!」

「そのエリカちゃん、顔見たか?」

「え?」

「冬馬がハマってるそのゲームな。
その『エリカちゃん』とやらのキャラが
お前さんそっくりなんだと。
そんでコイツそのゲームに注ぎ込んで
衣装だ何だって集めまくってんだよ。」

「えっ? え、え???」

「このバカ夫婦め。子供や弟にまで
迷惑掛けんな。勿論俺にもな。
…今日はそんまま双子はウチに泊める。
ちゃんと仲直りするこったな。
ほら、ちー、ひー?行くぞ。」

「ヤメろよ、秋羅まで!」

「ははは」




そんなバカップルならぬ、
いい夫婦の話。





end.

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