Event 1

□Happy Holiday
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【 Happy Holiday 】


ん…。

そろそろ起きようと手をグンと伸ばして
伸び。子供の頃は伸びをする度に背が
大きくなった気がしたもんだけど、
流石にこの歳じゃ無理。

…子供の頃の事なんて久々に思い出した
な…。

そんなこと思いながら、ふと気づく。
手の先に当たる違和感。
それから良い匂い。


――…え…?


ガバリと跳ね起きる。
腕が当たった枕元にはプレゼント。
真っ白に雪の模様の入った布の袋に
真っ赤なリボンと柊の飾り。
明らかなクリスマスプレゼント。

そして漂うコーヒーの香り。


――え…でも今朝までロケで地方の筈。


俺は袋のプレゼントを抱えてドタバタと
リビングへ。

リビングには満腹顔で毛繕いするミィ。
機嫌良さそうに俺の顔見てミャア、と
鳴いた。


「おはようございます、夏輝さん。」

「咲ちゃん!」

「まだゆっくり寝てていい時間ですよ?
…メリークリスマス、夏輝さん。」


キッチンから出て来た彼女は珍しくも
パンツスーツルックにエプロン姿で。
俺のボサボサの寝癖にパジャマ姿とは
対照的。
しかも俺、クリスマスプレゼントの袋も
持った状態で、まるで『お母さんっ!
サンタ来たー!』って興奮して台所に
プレゼント持って駆け込む子供みたい。

途端に恥ずかしくなって頭をワシワシ。


「…プレゼント、見ました?」

「え、あ!…ごめん。驚きすぎて
慌てて起きて来たから、まだ。」


ニコーッと満面の笑みの咲ちゃん。


「メリークリスマス! ですから。」


――あ、そう言えば俺、まだ言ってない

情けないほど取り乱して。


「…メリークリスマス、咲ちゃん。
…いつ帰って来たの? 昨日は深夜まで
撮影で、今朝までロケ先滞在予定じゃ
無かった?」


そう。
彼女は休みを取ろうと頑張ってくれてた
けど、どうしても抜けられないロケで
しかも真夜中までギッチリ撮影が入って
時間も読めなくて。だからロケ先に一泊
確定で…。その足で収録があるから、
逢えるのは今日の夜中だって。


「昨日、確かに遅かったんですけど、
夜行バスギリギリに間に合ったので
乗って来ちゃいました。」

「えっ、夜行バス?! 」

「はい。」

「じゃあ来たのって」

「はい。ついさっきなんです。
…あ、もしかして、それで起こして
しまいました?」

「いや、そんなんじゃないし、そんなの
全然構わないけど! ってか起こして
くれた方がその分一緒に居られるし。
大丈夫なの? 夜行バスなんて、体かなり
辛くない?」


かなりのテンパリ具合の俺。
だけど、咲ちゃんはそれに対して
のんびりしてて。


「んー、そうでもないですよ?」


嘘だ。夜行バスのシートなんてもう彼此
10年は乗ってないけど、シート角度は
精々リクライニングくらいでロケ明けの
体にはかなり辛い筈。

…それでも彼女は来てくれた。
ほんの何時間か俺に逢うために。

早朝の、それこそまだ暗い内に到着する
東京駅から更にここまで。


「…ありがとう…。」


ぎゅっと強く抱きしめて、彼女の頭に
キス。ふわり香る彼女の香り。

甘い、彼女の香り。ただそれだけで、
スイッチが入ってしまう俺のオス。

だけど、ロケ後に夜行バスに乗って
疲れてる彼女に無体な事なんて出来る
筈も無く。

ましてや彼女は今からまた仕事で。
状況的に、彼女を抱くのは許されない。

なのに、君は煽るんだ。


「私がこうして欲しかっただけなんです
…クリスマス、周りがみんなキラキラ
してる中、夏輝さんだけが足りなくて。
綺麗な雪景色を見ながら、こうして
夏輝さんの温度を感じたかったの…。」


なんて言って。

俺なんかいつも。
どんな景色を見ても。
どんな所に行っても。
頭を過(よぎ)るのは君と一緒だったら、
ってこと。

君もそう思ってくれてるの?


今は未だ、時折の逢瀬。
一緒に暮らして、一緒に寝起き、
揃いの指輪を嵌めるのは未だ。

それが寂しいって、思ってくれてる?

こんな無茶をして特別な日に逢いに来て
くれるくらいに。



…ねぇ、きっと今日は仕事上がりは
クタクタで、辛いとは思うんだけど…
ちゃんと俺の腕に帰って来て?


君を抱き締めさせて。



そして同じ夢を。

深い眠りの中、何処までも密着して、
2人で。




Happy Holiday



2人で居られたら唯それだけで。
どんな日だって特別。







end.

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