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□Bookshelf
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【 Bookshelf 】
(ブックシェルフ:本棚)



「義人くんコレありがとう!
面白かった! 続編だけど内容が全然
被らなくて別のお話みたいなのに
最後には繋がるんだね!」

「…咲ちゃん。」


楽屋に挨拶に来てくれた君が、まるで
待ちきれない!とでも言う様に貸した
本の感想を言う。
その様子に微笑み、本の話に花が咲き。

ああ、そうだ。彼女に貸すとこういう
ところも嬉しい。

数年前に、彼女が俺のラジオ番組に
出演して以来、彼女とは本の貸し借りを
する仲で。
好きな作家が被っていた事もあるが、
彼女のオススメの本も面白くて、また、
彼女も俺の勧めた本をきちんと読んで
こんな風に感想を言ってくれたりする
ものだから、気に入った本について
2人で語り合えるのが楽しかった。


「よく続くなぁ…もう何十冊目?
2人で本の貸し借りしだして。」


楽屋で菓子を摘んでいた亮太がそんな
俺らの遣り取りを見て、感心した様に
言う。


「…覚えてない。だけど、何十冊では
既に無いと思う。」

「あ、そうかも。もうこうして貸し借り
しだして何年目? 数冊纏めて借りたり
する事もあるものね。」

「ああ。」

「その本そんなに面白いの?
俺も貸して貰おうかな。」


楽屋の畳に寝転がって少年誌を読んで
いた翔が彼女の手にした俺の本に手を
伸ばす。その手が届く前にスッと横から
取り上げる。


「翔は本の扱いが雑だから貸さない。」

「えーなんだよ、それ!」

「分かる分かる! 翔に貸すと必ず
本の間に菓子が挟まってんの!」

「ええ?! 」

「そっそんな事ないよ!」


彼女が驚いたもんだから、翔は慌てて
否定するが…。


「その少年誌を見たら分かる。
菓子屑が既に挟まってるから。」

「そっそんな訳…っ」

「ほら。」


今度は亮太が慌てる翔の横から少年誌を
取り上げ、皆の目の前で逆さにして振る
…と出るわ出るわ、菓子の屑。


「…小学生かよ。」

「ちゃ、ちゃんと返す時には叩いて
屑は取り除いてから返してるだろ!」

「そういう問題じゃない。」

「翔くんはリラックスして本を読む人
なんだね。私も雑誌ならよくお菓子を
食べながら、とか見ちゃうよ?」


皆に弄られムキになる翔をフォローする
優しい咲ちゃん。


「でも咲ちゃんもお気に入りの本
間に菓子挟まってたらヤでしょ?」

「う、う――ん…お気に入りの本では
ちょっと、困る…かな。」


が――ん!って思い切り顔に出てる翔。
そんな顔見て、今度は咲ちゃんが
慌てる。


「や! あの、ね。お気に入りの本だと
装丁も気に入ってたりするから、そのっ
油染みとか着いちゃうとショックだなー
って…ご、ごめんね? 翔くん。」

「咲ちゃんが謝る事ない。
借りたものは原則、そのままの状態を
維持して返すものだ。」

「…うん。皆が皆そうじゃないかも
だけど、やっぱ気になる人もいるからね
翔もこれからは気をつけろよ?」

「って、一磨が一番その辺潔癖だけどね
俺らの中じゃ。」

「えっ、俺?」

「そういや、一磨が台本とかいつも俺の
予備まで準備してるのって…」

「翔対策だろ。一磨は自分の台本でも
何でも汚されたくない方だからな。」

「えー!」

「あ、でも俺もヤかも! 自分で自分の
台本書き込んでズタボロにまですんのは
イイけど、他の奴に書き込まれたくは
無いなぁ。」

「って言うか、亮太はそもそも台本も
何も、翔には貸さないでしょ。」

「確かに。」


なんて会話をして。次に貸した本を
彼女が大事そうにしまうのを見ていた。

そんな些細な仕草ひとつを取っても
好きだ、と思いながら。





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