Event 1

□ニヤリ!
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【 ニヤリ! 】



最近、咲ちゃんは忙しい。

いや、売れ出してから彼女はずっと全然
休み無しで忙しいんだけど。

特にここの所、月9ドラマのヒロインを
立て続けにしてからは、そのドラマ並び
主題歌が大ヒット!

そこからは元々レギュラーで出ている
バラエティでも大きく扱われ、今や毎日
彼女がテレビに出ない日は無くて。

それと反比例して、俺らとの仕事は減り
…いや、正確にはキャンセルでは無くて
月2回だったレッスンが1〜2ヶ月に
たった1回になり、間がかなり空いて。

新しいアルバム作業でドタバタだった
俺らが気が付けばもう2ヶ月まともには
逢って無くて。


最初に盛大に愚痴り出したのは冬馬。
次に目に付いたのは春の不機嫌。
秋羅と俺はそれをこうやって喫煙室で
報告し合ってる。


「なぁ、そろそろ何か手でも打った方が
良くないか? 春の不機嫌顔もいい加減
見飽きたしな。」

「…って言うか、冬馬が何かにつけ
『癒しが足りねぇ! 俺の天使ちゃんに
逢いたいよーぅ!』なんて言うから余計
だろ? 少し冬馬の口封じるか?」

「…その発想怖ぇよ、夏輝。…つかお前
自身も最近発想が危険思想なんはやっぱ
咲ちゃん不足じゃねぇのか?」

「っ五月蠅い! 秋羅、お前だってだろ
…最近呑みに行ってもつれないって、
冬馬ボヤいてたぞ?」

「…アイツ…」


そうさ、俺ら皆が彼女に癒されてる。
デビュー前の彼女が週何度もレッスンで
春んトコ来てて、もうその時点で俺らは
皆彼女に惹かれて。…俺なんかは彼女を
見い出した段階でそうだったんだから。

それが彼女がデビューして、レッスンが
週2回から1回になっただけでも残念で
メンバーの口数がちょっと減ったりした
ってのに、それが月1回って。

先日、レッスンでスタジオにも顔を出し
て居た彼女がレッスンを減らす事になり
最近作詞の勉強もさせて貰ってるのに…
って気落ちしてて。

俺らは自分らのガッカリを出す事無く、
彼女を励ましたのだった。

その手前、そんな簡単に彼女がスタジオ
来ないのが寂しいとか、何か調子出ない
とか言えないだろ。


なんて。

大人風吹かせて何でも無い顔してんのに
秋羅は更に俺を煽る。


「あー、あの天然で初心な咲ちゃん
だからなー共演者とかずっと一緒の男に
親切にされて絆(ほだ)されて、いつの間
にやら手ぇ付けられて気がつきゃ手遅れ
…なんて事にならなきゃいいけどな。」

「おい…!」


――手遅れって何だよ!

火を点けようとしていた煙草を握り潰し
秋羅を睨みつけた時、煙い空気が動き…


「ジョーダンじゃねぇっつの!
そんなん、俺が許す訳ゃねぇだろ!」

「お、冬馬遅かったな。」

「ゴキゲン斜めの春サマに打ち直しを
させられてたのお前横目に見てニヤニヤ
してただろ!」

「お前がミス打ちなんかするからだろ。
…つか、お前にそんな権限あんのか。」

「えー何? 咲ちゃんのコト?
権限なんか無くてもヤだったら奪還する
っきゃねぇだろ?」


「…それもそうか。」

「春?! 」


空気の流れが遮断され、閉じた扉の前に
春。その目は久々に見る余裕の光。


――あーあ、咲ちゃん悪いけどもう
諦めて? 俺らはどうあっても君の一番
近くを他の誰にも譲れない。

そんな自覚、迷惑かもだけど…でも一応
日本一のロックバンドとか言われてる
天下のJADEが君をベストパートナーに
選んだんだから、覚悟して。


俺らは本気で君を奪還するから。

冬馬じゃないけど、他の男に君の側は
許さない。

ドラマもバラエティも君のフィールド
だけど、君の一番輝くステージは俺らと
同じ歌の世界。そう確信してるから。


さて、そうと決まれば悪巧みしようか。
プリンセスをキングの守る城壁高い城の
中に奪還するための。


「お? ヤル気になったか?」

「…何か語弊は有りそうだけど。
でも、そうだな。」

「よっしゃ! やるか!」

「お前がノリノリなのもヤな予感しか
しないんだけど。」

「なんだよーなっちゃん! ネガティブ
な事ばっか言うなよ〜。」

「…早速、だな。」

「とか言う春もエライヤル気じゃん。」

「秋羅、お前のニヤリ顔もな。」

「そりゃここに居る全員だろ。」

「…違いない。」



『だって彼女の一番は俺らだからな。』


――いつかは更に1人の男として
この中で1番になってやる…!


ってのまでそれぞれの目に見えてる。
一番最強のライバルは仲間。






彼女の1番は俺ら!











end.

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