Event 1

□OIL
1ページ/4ページ

【 OIL 】


俺の愛用のZippoっちゅーライターには
オイルが要る。それが切れてもうたら
カッチンカッチンええ音させる、唯の
手遊びオモチャや。


カチンッ、シュボ…ッ


このええ音させて、ちょっとやそっとの
風や消えん安定火力がこのライターの
最大の魅力でもある。

馴染んだオイルの匂い、煙草も倍美味く
感じる不思議。


ふは―――…

あー…沁み亘る…。
まぁこの沁み亘っとる分、肺は確実に
真っ黒になっとんのやけど。


「おはようございます!」

「お、咲ちゃん。はよーさん。」


収録直前の打合せの後、少しの合間に
ぼやーっとしとったら元気な声が扉を
開けてやって来た。…咲ちゃん。

俺の彼女。

付き合うてまだ数ヶ月とちょっと。
もうすっかりオトナの関係の俺らやけど
まだ初々しい彼女はめっさ照れ屋で。


「何や朝から元気いーなぁ。そんなに
急いで愛しい隆やんに逢いに来たん?」


――あ、余計な事言うなや!

照れ屋の彼女が真っ赤んなって自分の
楽屋に帰ってまうやろ!


「やっ、違…っ!
も、もうっ慎之介さんっ!」


――あれ? 帰らへん。成長したなぁ…

なんて。真っ赤になっとんのにいつもの
ようにそそくさと帰らへん彼女に嬉しぃ
なって内心ニヤニヤ。

ホンマは家の中の2人っきりの空間だけ
やなくて、こんな気の置けん間柄の慎の
前くらいはイチャイチャしたい。

いや、別に慎の前でラブラブチュッチュ
したいとかそんなんや無くて。

もちょっと相手の温度感じる位に近くに
座って話したりとか、テーブルの下で
手ぇ繋いだりとかそんなん?

彼女は可愛くて、いつも健気で俺の事も
一生懸命大好き!って体全体で表して
くれる犬っコロみたいで。

いやいや、カラダ全体ってソッチの方や
ないけども。いやいや全く無いって訳や
ないけども!…って何言うてんのや俺。

兎も角!

そんな可愛い彼女と付き合うてんのは
俺やて誰かに自慢したいのかもしれん。

今んトコ知らしてんのは相方の慎と俺の
事務所と、彼女の事務所とマネージャー
…ああ、彼女は親友には言うたって言う
とったな。あと親にも話したて。

だから近い内彼女の親に挨拶。
勿論、本気でお付き合いしてますて。

ほんでもって出来れば後々の結婚の許し
までもお願いして。

そんな事思いつつ、真っ赤でモジモジ
しながらテーブル挟んで俺の斜め前に
座る彼女を見とったんや。


「おい、隆やんお前から訊ぃたれや!」

「は?」

「咲ちゃんさっきから何か
言いたそうにしとるやろ!」

「え、あ、そうなん?」


あかんあかん、俺とした事がついつい
彼女の可愛さに見惚れてそんなん何も
見えとらんかった。


「デレとらんとしっかりせぇやー。」

「っるさいな。ほなスマン咲ちゃん
どないしたん? 何かあったん?」

「や! いえ、
特別何かあったって訳じゃ…!」

「ほな特別や無い何かはあったん?」

「っ!」


彼女は素直や。
隠し事なんて何も出来ん。
そんなん仕事でもプライベートでもよぅ
知っとるけど。


――あー可愛い。

内心萌え萌えや。
ほんまメロメロなくらい。


そんな俺の萌え捲り状態を思いもして
ないんやろう彼女が決心したように
パ!と俺の顔を見て。


「あっあの! 今日、一緒に…!」


――え?




*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ