Event 1

□OILA
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【 OILA 】〜後日談〜



「どないやった?…昨日。」


俺が時間ギリギリ登局すると、当たり前
やけど、既に慎が楽屋におった。
そらそうやな、開始15分前やもんな。

心配そうに台本から顔を上げる慎。

急いで私服から衣装に着替えつつ応える
んやけど、ああ、アタマ重…。


「今、めっさ二日酔い状態や…
と言えば判るか?」

「なんや、ヤケ酒かいな。」

「な訳あるか! 彼女のお父(と)んと
朝までや…。」

「えっ、なんやその急な距離感…。」

「せやねん…。彼女のお母(か)んが
えらい社交的ちゅうか、フレンドリーで
仲を取り持ってくれてんけどな…。」

「…そりゃ良かったやん? お前結構な
口下手んトコあるし、そんなフォローが
あってラッキーやん。」

「ああ、せやな。そらその通りや。」

「どうせお邪魔した時、お前ガッチガチ
やったんちゃうの。」

「ああ…。」

「お母さんもそれ見て気の毒になったん
ちゃう? 何にしても結果オーライやな
…って、何やその表情(カオ)!」


――せやねん。
せやねんけどな!


「気に入られたんはええけど…。」

「うん?」

「俺の誕生日も、家族での食事会改め
誕生会になってもぅて…。」

「ぶはッ!」


噴きなや、慎。
それコーヒーやろ? 染みになんで。


「ぐふっ、ゲホ…ッ、そらご愁傷さん」


――いや、有難いねんけどな。
正直、家族に気に入られて家族行事に
加えて貰えるんは。


せやけど…

せやけど…


なんで俺の誕生日やねん!


…なんて、言うに言われず…。
今朝方、飲み明かした帰り際に上機嫌の
お父さんに言われたんや。

『隆実くん…芸人なんて言うし、歳も
離れてるから絶対遊ばれていると心配
してたんだ。君で良かった。うちの娘を
どうか宜しく頼むよ。…で、今週の君の
誕生日、どうか家族でお祝いさせては
くれないか? 家族の一員として。』

そん時は、お父さんの言葉に感動して
(いや、今も嬉しいは嬉しいんやけど!)
『ありがとうございます!』なんて満面
笑みで応えたんやけど。

よくよく考えたら、俺の誕生日…。
彼女が頑張って空けてくれたオフ…。

貴重な、貴重な…。
うぅ……

お義父さん、まさかホンマは計算とか
ちゃいますよね…?

まさかホンマは腹黒いとか…。


一見彼女そっくりな天然なお義父さん。
しっかり者のお義母さんは見た目が彼女
と瓜二つで。まんま彼女を20年(いや、
めっさ若く見えるから10〜15位?)歳を
重ねたって感じや。

そんな愛妻にそっくりの愛娘、そうそう
奪われて堪るか!的な?

…有り得ん事や無いよなぁ…。

出るのは溜息。

昨日とは別の。



そう思っとったんに。





***



「隆やーん誕生日イブおめでとさーん!
明日オフやんな? せやから今のうち
言うとくわ。」

「…おぅ、さんきゅー。」

「なんや、景気悪い顔しとんな!
今日はホレ、楽しい食事会なんやろ?
ニヒヒ、楽しんで来ぃや。」


――慎…、お前ホンマ楽しそうやな?

人の不幸は蜜の味ってか。
いや、全然不幸やないんやけど。
どうしても手中に収めたい彼女の家族に
認められ、あまつさえ俺の誕生日を家族
皆で祝って貰えるんやから。

…く…そうや、そうなんよな。
俺の楽しみで楽しみで待ち遠しかった
彼女とマッタリ丸々オフの誕生日でさえ
無けりゃめっさ嬉しい事やねん。

…はぁ、流石に今日、咲ちゃんを
連れ帰るんは無理、よなぁ…。
明日どないしよ。…彼女と待ち合わせて
ドライブにでも行こか。

いやそれも充分、楽しいし、嬉しいねん
けどな。

そう思って、ガクリと肩を落としとった
んや。本番ではシャンとせなあかんから
今だけは、て。


ほんで本番頑張って夜んなって。
さて、直接伝えられたお店へ向かおうか
ってな時に彼女からTEL。


「おう、咲ちゃんどないしたん?」

『あ、今から向かわれるとこですか?』

「うん今終わってん。…え、もしかして
待たしてもぅてる? 皆さんもう店に
来たはんの?」

『あっ違うんです! 私も今から向かう
ので、一緒に行けたらなぁって…。』

「ええよ。…って、大丈夫なん?
パパラッチとか拙ない?…俺は一緒に
行けんのは嬉しいけど。」

『ぅ…、えと、そうなんですけど…。』


電話口でしどろもどろんなる彼女。
間違い無(の)ぅ今絶対真っ赤っかや。
そんな様子が頭ん中再生されて。

――く…ッ、可愛ぇなぁ…っ

声には出さんけど萌え萌えしてる俺。
カッコだけの苦笑した声で彼女に言う。


「…なんや、甘えたやなぁ?」

『だって、あの…っ、誰よりも私が一番
最初に「お誕生日おめでとう」って言い
たくて…。ま、まだ明日じゃないけどっ
皆が今日言っちゃうと思ったら…。』

「…っ!」


――ああもう!
君はどないしたいねん、俺を!


あかんあかん、もう萌え萌えや。
俺は彼女にメロメロやけどもう今日は
更に萌え萌え。堪らんよ。

あかんどないしよ。


それやのに
君は更に


『あの…、それから、お母さんに協力を
お願いして…今日、一緒に…その…
一緒に帰れる事になった、から…。』


なんて可愛い声で。


そん時の俺の心情は…

サンバや!
ダンスや!
リオのカーニバルや!

高らかに高音の笛と花火の大合唱



「わ!なんや隆やん、そのステップ!」


そんな慎の慌てふためいた声はスルーで
いそいそと帰り支度。


そんな有頂天の俺の耳元に
彼女の愛らしい声。



『松田さん、プレ誕生日…
おめでとうございます。
ちゃんとしたお誕生日のお祝いは、
また後で…ね?』




ああ、やっぱ彼女は俺の潤い。
今の言葉で俺のカサカサだった我儘心は
ツルッツルや!
君のOILのような保湿力。


その一言でこんなにも。












Happy Birthday! TAKAMI❤
2015.04.30 ×××









おしまい

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