Event 1

□甘党
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【 甘党 】


先日仕事先の海外でやはりお仕事絡みで
相馬さんとお久し振りにお会いした。

初めての映画でお世話になってから、
もう何度共演して助けて頂いただろう。

相馬さんはいつもオトナでどっしりと
構えていて、私たち若手の失敗もいつも
フォローして下さり、相談にも嫌な顔
一つせずに乗って下さる大先輩。

実力派俳優として名高い相馬さんなのに
いつだってお優しくて、偉ぶった所も
無くて私の憧れの人。

でも最近はご一緒出来て無かった。

私の活動の場が女優業以外にもある為、
今季のドラマでご一緒じゃないと次の
ドラマまでお会いする確率がガクリと
減るので、もう暫くはお会いできないの
かと思っていた。

それが、年末(年始?)の海外ドッキリ
ロケでご一緒…というか私は騙す方で
相馬さんは騙される方だったから…
ご一緒した、なんて言い方で言っても
いいのか分かんないけど…出来て。

私は正直ドキドキしたのだ。

久しぶりにお会いした相馬さんは大人の
魅力に溢れてて。

海外の警察(実はドッキリスタッフさん
だったんだけど)と冷静に亘り合ってる
相馬さんの低い声は、台詞が英語でも
やっぱりカッコ良くて。
私はお仕事中なのに、思わずうっとりと
聞き入ってしまった。

しかもあの日は初めて本気で怒る『怒り
モードの相馬さん』を見てしまって。
相馬さんはドッキリだと解るとスッと
冷静さを取り戻し、いつもの様子へと
戻られたのだけれど私は内心ドキドキが
止まらなかった。

お久し振りに会うのにそれがドッキリで
騙す側だったのが心苦しくて謝って。

そしたらプライベートで甘味処に行こう
と誘われたのだった。

相馬さんの先輩(つまりは私にとっては
大大先輩?)からお勧めされた甘味処に
まだ行けて無いからって。

…律儀で真面目な人。
こんな派手な世界だけど、相馬さんは
実直で、お母さんと話した時にああいう
真面目な人と結婚しなさいね〜なんて
言われて、私は真っ赤になったのだ。

け、結婚なんてまだまだ予定にないし、
その前にまずはこ、恋人を作んなきゃ
なんだけど…って、私何言って…!

と、兎に角相馬さんはそんな素敵な人で
私の憧れの人。


そんな人と今日、約束の甘味処に行く。


待ち合わせは私の家の前で、車で拾って
下さると言う。私は普段、お父さんか
山田さんか、或いはレッスンやスタジオ
帰りにJADEの皆さんの車くらいにしか
乗った事が無くて。

ああ、撮影期間中お昼に行くのに大勢で
相馬さんの車にお邪魔した事はあった。
でも、その位しか無くて。
実は昨日から緊張気味。

一応、お約束はランチもご一緒して、
お昼過ぎに甘味処へ行く予定だから特に
お弁当を作るとかも無く。

何だか準備が手持無沙汰というか、何か
物足りない感じで落ち着かない。

相手は大人の相馬さんなんだから、私が
アレコレ考えなくても、撮影所みたいに
きっとすんなり流れる様に1日過ぎるん
だとは思うんだけど…ドキドキで。


――甘味処にこの恰好おかしくないよね

ふわりとした皺になり難いワンピース。
もしもみたらしのタレとか垂らしても
目立たない柄物をチョイスして。

…少し背伸びしてフェミニンな感じに。

だって、大人の相馬さんに釣り合う様に
見られたいから…。
って、唯の甘味処に行くだけなんだけど


そんなグルグルした状態で、私は近くに
来たらしてくれると言った相馬さんの
連絡を待った。

…一応、朝の段階でメールは貰ってて。
控えめに「雨降りそうだけど大丈夫?」
って、気配りの相馬さんらしいメール。
昨夜と1週間前も頂いた。


最初のメールは1ヶ月前。
「休み取ってしまったが、本当に
良かった?」って確認メール。

それから1週間前の…
「来週は雨続きらしい。寺町だから雨の
散策もいいと思うが、延期してもいい。
どうする?」って。

私は楽しみで仕方無かったから、即返で
「行きたいです!」って返したのだ。


それからの今日。

確かに天気は少し愚図ついてて、もう
今にも降り出しそう。


雨は残念だけど嫌いじゃ無い。
声が聞こえ難くて、2人の距離が自然と
近付くから。


そんな事を考えて窓から空を覗いて。

1人頬を赤くしたのだった。





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