Event 1

□ハロウィン・ショック
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【 ハロウィン・ショック 】



「だから止めとけって。」

「だってさ、気になんねぇ?」

「いや、気になるかならないかで言えば
気になるけど、飲むのは勘弁。」

「どうせ怪しい精力増強剤だろ。」

「…馬鹿馬鹿しい。そんな物を飲んで
病院に担ぎ込まれるなんて事になったら
間抜け所じゃ済まないだろう。」

「おお、春が長センテンスで話す程の
馬鹿馬鹿しさってか。」

「秋羅、てめぇ…。」

「いや俺も相当馬鹿だと思ってるけど」

「ちょっなっちゃーん!」


事の始まりはJADEスタジオの専属
スタッフが、ついこの間行って来た
とある海外旅行土産。


『超怪しかったんで、つい買って
来ちまったんです。』


そう言って手渡されたのは、遠吠え狼の
イラストが原色バリバリのアンプル剤。

…最近はもうあまり見る事のない、
小さな瓶の尖った先までガラス製で
くびれた部分でポキンと折って飲む、
アレ。


"これを飲めば、
アナタもたちまちオオカミ!"


現地の言葉でそう書かれたアンプル瓶は
見るからに怪しさ爆発。

しかもなんか中身も原色っぽいあたりが
もう、何が入ってんだかって感じで。

買って来た当人も「話題性って事で!」
と笑ってたそのシロモノ。

冬馬がやたら興味を示して。


――だから止めとけって。

塗る、とか貼る、とか程度なら兎も角、
飲むのは洒落なんないって。


そう言って皆が止めたのに、
あのバカ…!



ポキンッ!

ごきゅっ


「あっ、バカ! お前っ冬馬っ!」


…飲みやがったんだ。
その怪しげなアンプルを。

50ccだか何だか、量的には少ないけど
明らかに精力増強剤的な薬品臭いその
小瓶を煽って。


「知ぃ〜らねーぞー?」

「馬鹿が…。」

「んー、そう不味くは無かったぜ?
…ちょっと新グロ○ントみたいな味で…
…………ん………?」

「どした?」

「…吐くか? バケツ? トイレ?」

「だから言っただろう。」


ピタッと動きを止めた冬馬。
思わず皆の視線が冬馬に集まる。

顔色は悪くない。

…ちょっと、いや、尋常じゃ無い
汗が出てきてるけど


「おい、マジで大丈夫か?」


流石に秋羅も茶化してる場合じゃない
って思ったみたいだ。

俺は直ぐにスタジオ前の廊下の自販機で
水を買って冬馬に投げ寄越す。


「がぶ飲みして吐いて来いよ。」

「や…なんか、そんな感じじゃ無くって
……すっげ…カラダが熱っちぃ……」


そう言って目の前の椅子にへたり込んで
背凭れに顔を伏せるから。


「ちょ、マジか。ごめん春、バケツ!
秋羅はタオル! 冬馬、ちょっと横に…
ぅわあッ…!」

「おい、夏輝、なに騒いで…」


自分のバッグからタオルを出してた
秋羅が振り向く。

冬馬から1歩、
ピョンッと後ろへ跳び摩った俺。
しかも全身で引き気味に。

そこへバケツとコップとビニール袋を
持った春も入って来て。


「…驚いたな。」


――そんな事言ってる場合かよ!


そう、俺らの目の前で、半人半狼の冬馬

あの体格はそのままに、全身には毛が
ボーボーと生えていて、顔はもう、
まんまオオカミ。

被り物、とかって感じじゃ無く、
目も口も滅茶苦茶リアル。

よくよく見れば瞳は冬馬の眼の色で。


「お…おいおいおい、いつの間に
そんな被り物を…」

「秋羅、そう思いたいのは俺もだけど
今、明らかに冬馬手ぶらだったから。」

「いやいや、何かのマジックか
なんかの練習か? 冬馬?」


「人語は解するのか。」

「ちょっと、春?! 」


「…見た目がこうまで変わるなら、頭の
中身が変わってても何の不思議はない」

「…確かに。」


――って、お前ら納得してる場合じゃ
ないだろ?! どーすんだよ、コレっ!




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