Event 1

□Holly Wishes
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【 Holly Wishes 】
(ホーリー・ウィッシス=聖なる願い)


願い事は何?

そう夢で聞かれて、出た願いは

『咲ちゃんとの間に子供が欲しい』

だった。

コレって、普通…妙齢の女性が願う願い
じゃないか? そう頭に過ぎったけど、
夢の中、泉の中から現れた女神様を前に
口に出たのはやはりそれ。

童話の『金の斧銀の斧』宜しく、夢の中
俺は森で迷ってて。
迷い込んだ森の奥、行き当たった泉から
現れた咲ちゃん似の女神様。

『そなたの願いは何か』

厳かなその声は訊いた。
咲ちゃんの様でいて、彼女特有の
柔らかな声では無い声で。

俺は…夢の中ってのもあって、そんな
非現実的な状況を不思議には思っても
すんなり受け入れ、女神様の前で跪き…
頭ん中で色んな事をぐるぐる。

頭の中に浮かんだのは二つの事。
ギターと咲ちゃん。

ギターは自分の努力次第でどうにでも
出来るし、する、と直ぐに決断して、
思うのは…最近多忙過ぎて、なかなか
逢えない愛しい彼女。

師走に入って、世間の誰もが忙しい季節
とはいえ、彼女の多忙さたるや本当に
体調が心配で。テレビで見ない日が無い
くらいだから、姿は見えててもやっぱり
直接逢うのとは天と地ほどの差があり…

元々マメで、しかも若い女の子な彼女
だから、電話もメールもこまめにくれる
けど…やっぱり日に日に疲れが見えて。

咲ちゃんは列記とした俺の彼女で
それは公表こそはしてないけど、俺らの
家族やメンバーや友人の近しい人だけで
なく、事務所にだって公認で。

でもだからって、家族ではまだ無いから
…彼女の体調を心配してても、彼女の
仕事をセーブさせる権限も無ければ、
口出しする事すらも憚られて。

勿論、辞めさせたい訳じゃない。
彼女の才能も、その稀有さも熟知して
いるし、彼女の芸能活動は正に天職だと
俺だって思ってる。

…でもさ、正直言えば一人の男として
惚れた女に逢えないのも、抱けないのも
辛いんだ。

彼女の身体が心配なのも勿論だけど。

なんて、そんな日々葛藤してる事に
行き着いて。
…そう考えたら、是非カミサマに叶えて
貰いたい願い事は彼女と一緒に居れる
立場…つまり家族になる事で。

そこまで思い至ったら、そんな願いが
口を突いて出てしまってた。

我ながら驚きだけど。


なのに、女神様はにっこり笑って
言ったんだ。

『正直で宜しい。』

と…。


――え、それって…


夢の中の俺を、夢だと思って何処かから
見ている俺が期待と焦りの声を上げる。

そう、

期待
それから
焦り。


彼女との子供が欲しいのは事実。

だって、彼女の子だよ?
そんなの可愛過ぎるくらいに可愛いに
決まってるし、況(ま)してや俺との間に
授かった子なら俺は確実に親バカな父親
確定。そんなの、絶対。

――だけど。

その反面、彼女の夢を途中で手折って
しまうんじゃないのかとか、俺だけの
気持ちでそんなの叶えていいのか、とか
…後は単純に先ずはそれよりも彼女との
二人っきりの新婚生活も満喫したい、
とかっていう色々正直なトコでの焦り。

子供より先に彼女との結婚とか、同棲
とかさ!…なんて思いつつも、でも…
何処か深い部分では彼女と『家族』って
いう深く強固な繋がりを求めてる事を
実感してる俺。


そう、どうあったって彼女をその先
手離すなんて考えられないから。

俺の中ではそれだけは絶対で。
100%…いや、1000%の確率。
俺の未来は隣りに彼女。
これはこの先の必須条件。
俺の人生の幸せの絶対定義。

そう思って。



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