Event 2

□予約
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【 予約 】


「ママー!」

「あらあら、どうしたの?」

「たっくんがひどいの!」

「…ケンカしちゃった?」

「ちがうもん! たっくんがひどいこと
いうからおいてきたのっ!」


保育園の年長さん、おませで可愛い娘の
お迎えに来たら…いつもならニコニコの
満点の笑顔で出て来てくれる娘が珍しく
プンプンして出て来たから。


「あらあらあら…」なんて言いながら、
彼女と同じ目線にしゃがんで。


――女の子だなぁ…
その子の事が好きなのね?


ぷん!と怒って膨れた小さなほっぺた。
目の奥には…拗ねた光。

感情のままに力一杯表現してる、そんな
素直な彼女の様子に微笑んで。


「たっくんは何て言ってたの?」

「ッ…、………。」


普段は何でも話してくれるのに、今日は
そうじゃないみたい。それはちょっとだけ
がーん、って来たけど…そりゃそういう時も
あるよね…。って私は優しく微笑んで。


「言いたくなかったら…言わなくてもいい
のよ? …ああ、でもママ気になっちゃって
今日は眠れないかもしれないなぁ…っ」


そう呟けば。
慌てたように私の手を捕まえて


「ッダメよ! ママはわたしといっしょに
おねんねするのよ?」


って心配そうに覗き込んでくれるから。
ふふふって笑いそうになるのをどうにか
堪えて…彼女を抱っこした。


「じゃあ、すこーしだけお話ししてくれたら
お気持ちもスッキリするし、ママも眠れる
と思うんだけど…どぉ?」


一応、本当に心ない言葉とかで傷つけられて
たりしても心配だから、内容を確認したくて
そう言えば、明らかにしゅん…としちゃった
娘の気配。


あららら?

「たっくんね、ひどいの…」

「うん?」

「…ママの、むかしのDVDみたんだって。」

「?」


急な話の飛び方に『?』ってなったけど、
ここは辛抱強く…。


「たっくんが、たっくんのママの…では
なくて、ママの?」


抱っこしたまま自分で自分を指さして今の
お話の登場人物の確認。コクン、と頷く娘。


「ずっとね、もう…あさからずっと、
ママのことかわいいかわいいって。」


――え…、えええ〜…???
まさかの原因は私?!


あ…有難いけど、嬉しいけど…困惑。

だから…感情ではなく、恐らく事実だけを
娘に伝える事にした。


「…たっくんはママのお仕事知らなかった
のね。ほらママのお仕事の衣装はキラキラ
してるし…初めて見て驚いたのね。」

「でもっ、おんなのこのまえで、ほかの
おんなのこのことばっかりほめるのは
おとこのことしてダメなのよ?」


ぅぶッ、けほっ…ごほ、こほん。

あまりの台詞に、思わず変なトコに空気が
入って咽せてしまった。


――女の子だなぁ…ッ?!

知ってた以上の娘の女子力に感心して、
またある意味真理な発言に心底感心もして。
つい、娘に教えを乞うてしまった。


「…他にもしちゃ、イケナイ事あるの?」

「んー、そぉねぇっ。けっこんしてるひと
すきになるのは『ぷりん』っていって、
とってもイケナイコトなのよ?
あっぷりんはプリンでもねあのおいし〜い
プリンとはぜんぜんちがうのよ?」

「ふぐ…ッ」


自信満々に胸を張ってそう言う予想を遥かに
上回る返しに、今度はもう抑える事も叶わず
吹き出してしまった。


「ママ? わらいごとじゃないのよ?
だってママはパパのでしょ? だっていつも
パパがいってるもの!」

「…ッ、う…うん。確かにそうね?」

「だからたっくんのおねがいはかなわない
のにかわいそうじゃない?
…わたし、だからいってあげてるのに…」

「たっくんのお願いって?」

「……ママとけっこんしたいんだって…」


ギュッと私に抱きついて、小さく漏らされた
言葉。そのトーンに私の胸もチクンと痛んだ。


「…そうね、ママはパパだけのだから
たっくんのお願いは叶わないかな。」


そう言ってトントン…と彼女の小さな背中を
撫で、ギュッとしてたら想いが溢れちゃった
のか…わーん!って声を上げて泣いちゃって。

そんな彼女を、横からヒョイと…もうそんな
軽くは無い筈なのに…軽々しく私の腕から
抱き上げた彼。


「夏輝さんっ!…えっ、あれっ?
私今日お迎え行けますって連絡入れました
よね??」

「うん。…でも俺も用事が済んだから。」


私の顔を覗き込むその優しい瞳はやっぱり
娘とそっくりで。

…しかも、いつだって目に入れても痛くない
程 可愛がってる娘の為に、少しでも時間が
空けばこうして気に掛けてくれる彼に思わず
さっきまでの胸の痛みなんて何処かへ飛んで
行っちゃったようにほんわり…してたのに。


「パパのママに横恋慕した挙句、パパの
可愛い娘をこんなに泣かした不届き者は、
パパがやっつけてやんないとな。」


そう、口元には変わらず優しげな笑みを
張り付けてるのに不穏な目で保育園の園庭を
覗き込もうとする彼。



*
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