Event 2

□ブラックサンタ
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【 ブラックサンタ 】


ブラックサンタ、という存在を皆さんは
ご存知だろうか?

ドイツに古くから伝わる…日本で言う所の
『ナマハゲ』ちっくな人物?なんだけど。

正規のサンタクロースの聖ニコラウスは
『良い子』に訪れる、所謂世間一般、皆の
知ってるサンタクロース。

ブラックサンタはその側で『悪い子』を
懲らしめる、化け物?精霊?的な物らしい。
俺も映画の知識だけで本当の伝承を知ってる
訳じゃないんだけど。

『泣く子はいねが〜?』と悪い子を探し出す
恐怖のナマハゲ的に悪い子をあの袋に詰めて
連れてってしまうとか、プレゼントの代わりに
炭を渡すとか(意味不明)、その炭で叩くとか
結構な奇行をする子供にとっちゃ怖いモノ。

…誕生日なのに、俺が正にブラックサンタに
なりそうな今日。

袋に詰めて持ち帰るのはもちろん愛しい彼女。
炭で叩いて追い払うのはうちのメンバー&
調子こいてる水城さん。


「Happy Birthday 亮太ー!」


パン! パパパン!

けたたましく鳴るクラッカーと大勢の声。



…は?
何で此処に居んの。

京介はまだ分かる。
彼女と同じマンションだし。
だから京介につられて集まったメンバーも
まだ辛うじて。(納得は出来ないけど!)

…水城さん、アンタ何してんの?
しかも翔をとっ捕まえてさ。
翔なんて何の等価交換にもなんないのに。

俺の笑顔の額にビキビキと血管が浮き出てる。
それはアイツらも気付いてる。
だってほら、翔が目を合わせないし、一磨も
ソワソワし出してるし。何故かそれなのに
めちゃめちゃ楽しそうな満面の笑みの神経
タワシの水城さんはもう置いといて、横で
ニヤついてる京介、あくまで飄々と出された
ココアなんて啜ってる義人。

此処は彼女のマンション。
(まぁ…マンション自体は京介のでもあるん
だけど)彼女の部屋。

今日は彼女が前々から山田さんに掛け合って
どうにか空けてくれた今日の午後から明日
一日までの貴重な休み。本当は昨日の夜から
一緒に過ごしたいと頑張ってくれてた彼女。
…でもそれは流石に難しくて。

だから、今日は二人にとって待ちに待った日
だったんだ。彼女が昨日から仕込んでくれてる
ご馳走を、俺の隠れ家に持ち込もうとして…
その量に悩んでたのを知って、じゃあ俺が
ご馳走になりに行くよ、って答えた。

普段なら俺の隠れ家が二人の逢瀬場所なんだ
けど、今日は珍しく彼女の家で、って。
俺の出入りは同じマンションの京介の家が
隠れ蓑になってくれるから、実はそんな大変
では無いし、もっと早くこんな日を過ごしても
良かったな…なんて思ってた俺、今すぐ思い
直せ!と過去に戻って怒鳴り散らしたい。

…そうだ、こんな可能性を考えてたから今まで
避けてたのに、浮かれ過ぎて忘れてた。

俺とした事が。


皆が狙ってた咲ちゃんの隣の位置を
手に入れて…念入りに囲い込んだのは数年前。

そろそろ公表を狙ってアチコチに察せられる
動きをし出してて。そんな俺らに流石にもう
メンバーも完全協力体制で今更こんな事になる
なんて思ってなかった。

…いや逆か?
本当に公表して誰の目にも彼女は俺のものに
なる前に、最後の足掻き?

は? させないけど?


「あ…っ、あの、亮太くんっ皆さん亮太くんの
お誕生日のサプライズしたいって…!」


何そんな にこやかに言ってくれちゃってんの?
…俺が祝われたいのは咲ちゃんだけって
知らない訳じゃ無いでしょ?

彼女の綺麗に整理されたワンルームはその
大きさの割に広くは感じるけどこの人数じゃ
やっぱり狭い。俺らだけでも充分ミチミチ
なのに大男一人プラスされてもうギチギチ。

なのに、部屋の中央には小さなテーブルに
補助テーブルまで出してその上には数々の、
彼女の愛情手料理。俺の好きだと言った物
ばかり。

…その品数は明らかに2人分には多過ぎる。
けど、でもその中の幾つかはこーいう時の
彼女にしては手の込んでない品がチラホラ。


――こりゃ突然のサプライズに慌てて追加で
作った感じ?

つまりは彼女も迷惑サプライズされた側なんだ
という事を察して少しだけ溜飲が下がった気が
したけど…でも

ダメだろ!

フツーに考えて、恋人同士の年に一度きりの
大イベントに、何勝手に乱入してくれてんの?!

そんな更なる怒りの底上げが再燃して沸々。

そんな俺の不機嫌を察知した彼女が慌てて
何故かわざわざテーブルの下に隠してあった
皆のプレゼントを押し出して一生懸命、この
サプライズのフォロー。

…それが余計俺の機嫌を損ねてるとも知らず。


「あのね? 皆さん亮太くんへのプレゼントも
準備してらして、凄いのよ? こんなに!
クリスマスなのにそうじゃない理由でこんなに
プレゼントで部屋が埋もれるなんてそうそう
無いよね!」


俺ら芸能人なんだからフツーにあるじゃん。

誕生日はもちろん、主演記念、◯周年、そんな
ファンサイベント的なのも含めて。

意地悪くそんな事を心の中で嘯いて。

でも「皆が亮太くんのお誕生日を祝ってくれて
嬉しいっ!」ってまんま顔に書いてある笑顔で
…キラキラの目で言われたら、うぐ、としか
声が出ない。



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