Event 2

□ブラックサンタ
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「ままま、こうやって集まれんのもそうそう
無いしさ? ほら、そんな立ち尽くしてないで
早く上がって座りなって。」


ニヤついた京介の促し。
それがまた俺の癪に触る。

は? 此処、俺の彼女の家だし。
何お前が仕切ってるの?

集まれんのもそうそう無い?
殆ど毎週顔合わせてんじゃないか。
それぞれの活動もあるから毎日じゃ無いけど
グループ活動なんてそれで十分だろ。


「先頂いてる。乾杯。」


手にしたカップを掲げいつもの覇気のない顔で
そう言った義人を睨む。

それココアだろ。寒い外から来たからって
彼女が気を遣って出したココアで乾杯?
何それ、祝う気あんの?

…ってか、これでアルコールなんか出された
日にゃ長っ尻の雑魚寝コースになりそうだから
絶対阻止するけどね?


「…すまん、亮太…。二人の邪魔する気は
なかったんだけどあれよあれよと言う間に
来襲の計画が進められて…こんな事に。」


自分の無力さに打ち拉がれてる感のある一磨。

…まぁあの水城さんの勢いに対抗し切れる奴が
何人居るかと思えば仕方ない。でもフォロー
なんてしないからな? 加担したのは事実なんだ
から好きなだけ打ち拉がれてろ。


「りょ…ッうごっ」


――もう、翔はそのまま水城さんの腕で
絞められて黙ってて。イラつくから。


「冬馬さんっ、翔くん苦しそうっ!」

「え? あーごめんごめん。ちょうど良いトコに
良い高さの肘置きあったからつい〜。」


そう言いながら勝手にヒョイと料理を摘み食い
する、何処までも自由人の水城さん。
本当に肘置きのつもりなのかその間も翔の肩に
そのぶっ太い腕を巻きつけたまま。

…首謀者が何の言い逃れも無しかよ!


「俺はアレよ? ミケくんには特別な
サプライズ準備して来たんだかんね?」

「…ぅわ、ゾッとする。」

「亮太くん!」

「その言い方にはゾッとしないなぁ亮太。」

「国語の妙だな。」

「お、何ナニ? 言葉遊び? 韻踏みでもする?」

「Hip-Hoper なの?」

「それ『バカなの?』と同じトーン。」


――いや、マジで思ってるし。

そんなバカ話してる間にも彼女が一人アレコレ
忙しく動き回ってて。


「…手伝うよ、コレ取り分ける?」

「いいのっ 亮太くんは今日の主役なんだから
ゆっくりしてて! 外寒かったでしょ?
亮太くんも先に紅茶飲む?」


――あ、俺には紅茶なんだ。
それもちゃんと、俺のお気にの茶葉。


「あっ、マサラチャイの方が温まるかな…
でもお腹に溜まっちゃう?」


そう言って屈託もなく笑う彼女に、
既にほっこりと温かくなってる胸の内。

ハッと見回せば生温かい京介たちの視線。

五月蝿いな!
視線で煩いってどーゆー事だよっ。

二人の時のデフォとはいえ、緩んだ表情を
見られたであろう事にバツが悪くつい意地を
張り直す。そんな俺を温かな目で見てる彼女。

あーもぅッ、調子が出ないっ


「えー、何その二人の空気ぃ〜
マジ妬けるんですけどぉー?」

「冬馬さんっ」


だったら出てけ。
勝手に上がり込んで来たのはアンタだろ。

誕生日なのに、こんなにも心尽くしの料理まで
作って貰ってるのにぶすっ垂れて…あ〜ぁ…
俺 何してんだろ…。


「…亮太くん?」

「うん…もういい。無視する。」

「へ?」

「…こら、また『へ?』って言った。」


きゅむ、と彼女の小さな鼻を摘んで。

おでこをコツンと付けて、目を合わせて。
囁く。…囁きというにはハッキリと。
アイツらにも聞こえるようなトーンで。


「『もういい。無視する。』
今日は俺の誕生日でしょ? 咲ちゃん曰く
俺が王様なんだよね?」

「う、うん?」

「俺が嬉しい事を俺がしたいようにする。」

「――もちろん! したい事言って?
今日は亮太くんの願い、叶えられる物は全部
叶えちゃうから!」


自分にも宣言するように言い切った俺に
フンス!と力んで答える彼女の…その、
子供みたいにキラキラした瞳。

この瞳に俺の気持ちが全部持ってかれてる
なんて思っても無いんだろーなぁ…。


「うわぁッ、咲ちゃんっ『何でも』
なんて男に言っちゃダメでしょおぉ〜っ?! 」

「そうそ。とんでもなくどエロいコト、
されちゃうよ? むっつり亮太に。」

「えっ、ミケくんって、やっぱそーなん?! 」


――『やっぱ』って何だ、『やっぱ』って!
アンタに俺の俺たる何が分かってるってんだ。

そうカチンと来たけど…宣言通り、無視。

無視して、まだ料理をサーブすると言ってる
彼女を腕にキッチンに篭って。




「あーぁ…ほぉら、だから言ったのに…
水城さんが亮太嗾けるから二人で篭っちゃった
じゃんー。」

「何が『だから言ったのに』だよ。中西、
お前は横でニヤニヤしてただけだろ。」

「『馬に蹴られろ』は正に今の俺たちだな。」

「バーカ、全員が未練タラタラなクセして
なーに言ってんだ。奪えよ、奪っちまえ。
まだ公表前がラストチャンスだろ?」

「…で、Wave全員で揉みくちゃになってるトコ
JADEの誰かさんに鳶に油揚げ、って?」

「…疑り深い男は嫌われちゃうぞ☆」

「うわ、ウザ。」

「桐谷クン? 君どんどんミケくんバリに
口が悪くなるね? また絞めるよ?」

「…何言ったんだ、翔…。」

「かっ一磨っ別に俺は何もっ」

「…大体、水城さんに絡むな、ってあれ程
言っただろ。京介も、翔も! 亮太見てて
分かるだろ! 絡んで良い相手とそうじゃない
相手は見極めないとこんな風にっ」

「『こんな風に?』…へぇ、本多クン、
実はそーゆーキャラなんだ?」

「………。」

「で? 『こんな風に』って?」


凶暴な笑みを浮かべ先を促す冬馬に答えたのは
自他共に認める平和主義のWaveリーダー一磨
ではなく


「…『咲ちゃんに迷惑を掛ける事になる』
…じゃないですか。――あ、もう来た。」

「義人?」


立ち上がった義人、それとほぼ同時に鳴る
インターフォン。


「へ? 宅配便かな…何か頼んだっけ…」


そう言って赤い顔してキッチンから出て来た
この部屋の主の彼女を見、少しの溜息と軽く
手で制して。


「はい、通して下さい。」


勝手知ったる、と言うようにエントランスを
通した相手は。


…ガチャ



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