Event 2

□大晦日
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…そんな今年の振り返りをしていた頃に
まーくんが起きて来て。


「あっ、お姉ちゃんもう起きてる。」

「遅いのはまーくんでしょう!
全くもう、今年一杯ダラダラするつもり?」

「いーじゃん『寝る子は育つ』だよ母さん。」

「実は私もさっき起きて来たトコよ、
まーくんおはよう。」

「おはよ。――やっぱり?
昨日遅くまで喋ってたもんね?」

「ッ!」


――やだ、聞こえてた?! そんな大きな声で
話してたつもりはないのだけれど…


「安心して。聞こえてたのは声だけ。
会話は聞こえてないよ。…恋人たちの深夜の
会話を盗み聞きする趣味の悪さなんて持って
ないからボク。」

なんて意味深なワードを口にするまーくんに
真っ赤になって。


「…良かったよ、幸せそうで。
今度は大丈夫なんでしょ?」

「も…もうっ! 大丈夫に決まってるでしょ!」

「こっちは心配してんでしょ、ボクだって
あんなお姉ちゃんもう二度と見たくないし。」

「そ…それは、ごめん…。」

「もーホントにさー…」

「も〜…っごめんって!」


ガタガタになったのを、弟にまで心配掛けた
あの黒歴史は…まだ『思い出』と呼ぶには
生々し過ぎてつい言葉を遮ってしまう。

察しの良いまーくんもそんな私の様子から
それ以上突っ込んで来るなんて事はしなくて。


「あっ、母さんボク今から出るから。
んでそのまま友達と初詣行ってくる。
ご馳走は帰って来たら食べるからボクの分
ちゃんと取っといてね。」

「えー? 高校生だけで大丈夫なの?」

「大丈夫。受験生だからね、皆で合格祈願を
ハシゴして来んの。」

「補導されたら受験にも響くでしょ、
あっそうだ、お姉ちゃんも一緒に行ったら?
芸能人でも社会人でしょ」

「えっ?」

「やだよ、結構皆目敏いんだからバレたら
余計な騒ぎになっちゃうだろ。」

「まあぁ、あんなに『お姉ちゃんお姉ちゃん』
ってベッタリだったのにねぇ。」


――ホントに。
…もう高校生なんだから、当たり前っちゃ
当たり前なんだけど…寂しいなぁ…。


「…なんだよ、お姉ちゃんまで寂しそうな顔
しないでよ。(笑) …もう暫くしたらお嫁に
行っちゃって、離れちゃうのはお姉ちゃんの
方でしょ。」


そう言って、ぺちん!と笑いながら優しく
おでこを叩かれて。そのまーくんの目の奥にも
寂しさを見つけたから、私も素直に「ウン…」
と頷いた。


「今度は…意地張らずにそうやって素直に
寂しいとか態度にも出して言うんだよ?」


そしたら…すっかり背も伸びたまーくんが
そんな風にどっちが上だか分かんない優しい
瞳で諭すから、私は意味もなくえへへ…と
笑って。


「ホントよねぇ。…まぁでもあの辛い日々が
あったから『雨降って地固まる』で良かった
んじゃない? …ふふ、あれから今まで以上に
もっとラブラブたもんねぇ?」

「結婚前のお正月帰省を許すくらいにね?」

「そっ、そんなの…っ」

「そうよねぇ。前は丸々のお休み帰省だなんて
まずしてなかったものねぇ?」

「そっ、それは…っ荷物の整理とかっ…」

「とか言いつつ、今日も顔見に来るんでしょ?」

「えっ?! 」

「さっきお母さんには連絡来てたわよ?
咲にも来てるんじゃないの?」

「えっホント?! あっ、ホントだ…っ」

「やだ、見てなかったの?
咲が居ないとよっぽど寂しいのねぇ…」

「…昨日も遅くまで電話で話してたのに?」

「うぅ…」

「あらあら、これじゃあお正月休み丸々って
訳には行かなそうねぇ…お父さん大丈夫かしら。
咲との時間を作る為に急に家族旅行だ!
とか言い出し兼ねないわね…どうする?」

「…旅行先にも合流して来るんじゃない?」

「あーなるほど。お父さんにはそう言って、
無駄ですよ、って釘刺しときましょう。
折角のお料理無駄にされたらかなわないわ。」

「…とか言いつつ、母さん最近益々料理に
リキ入ってない?…しかもそこはかとなく
ボリューミーだよね? 昨日から明らかに
いつもより分量多いし?」

「…あら、そお? あはは、やだ、バレバレ?
当たり前じゃない。咲のお婿さんよ?
母親だもの、もてなすに決まってるでしょ?」

「――それだけじゃないでしょ?
知ってんだからね、叔母さんだけじゃなく
母さんも面食いなの。」

「あら、あらあらあら。うふふ、…だから
お母さん、お父さんと結婚したのよ?」

「ッ、やめてよ。両親のダダ漏れの恋愛事情
とか聞きたくない。」

「思春期は難しいわねぇ…。」


肩を竦めて首を振り振り足速にリビングを
出て行くまーくんに、コート掛けに掛けてある
マフラーと手袋を渡しながらを見送って。
思春期でも反抗期でも、いつだってちゃんと
「行って来ます」の声掛けをしてくれる弟に
ほっこりしながら、私もこうやって子供に
平気で惚気ちゃう夫婦になりたいな、なんて
思う。


さて、今年もあと数時間。
お仕事の後、実家に立ち寄ってくれると言う
彼は年内に間に合うだろうか。

…そしたら二人で近所の神社に二年参りを
提案してみる? 昨日、電話で話しながら
訊いてみようと思いつつ忘れてた事を思って。

彼と今年も来年も一緒に居たいと切に思う。

半年前、実は少し…諦め掛けそうになってた
私の手を引っ張ってまた強く繋ぎ直してくれた
彼とこの先も…と。今度は信じられるから。
ちゃんと自信を持って『私』が『貴方』とと。

色んな事があった今年。
もう過ぎ去ってしまえば『喉元過ぎれば』で
些細な事は忘れてしまいがちだけど、着実に
一つ一つ重ねて来た貴方との一歩一歩。

来年もまた一つ一つ更新して重ねて行きたい。

二人で
そして皆で

家族も、支えて貰った周りも皆で。



さあ、今年もあと少し。
皆さんもどうか良い年越しを過ごされて


今年も支えてくれてありがとう。
どうか来年も宜しく。



彼と私を見守って
これから先も
永遠に八千代に…なんて、ふふ





あっ、車の音!

彼が来たかも?





それでは皆さん、良いお年を。









end.

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