Event 2

□おじさん構文
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【 おじさん構文 】


それは朝。
いつもの始業前の喫煙室。

始業、と言っても彼らの場合は
ミュージシャンなんて世間一般とは
ちと違う生業だから眠気覚まし兼酒抜きの
朝の一服、超人的なパフォーマンスを
培う為の聖なるグダグダタイム?

まぁつまりはいつもの如く…な、
あの時間。


「めっずらし。なっちゃんが朝から
スマホガン見なんて超レア〜。」

「あー確かにな。いつもならスマホは
尻ポケットに入れたまんまか、そこに
放っぽって煙草片手にバサバサスコア
確認したり今日のスケジュール確認とか
し始めてんのにな。」

「そそそ。俺らとの会話スルーしてな!
メンバー愛はどーしたよ、ってな?」


キャッキャと良いネタでも見つけたと
言わんばかりに話を振った冬馬と秋羅。
そんな軽口だったのに、言われれば確かに
珍しい彼の様子に眉間を寄せたのは春。


「…何か、あったのか?」


いつもなら穏やかながら淡々と日々の
作業の采配を手早く確実にやって退ける
我らがリーダー夏輝の、そのいつもとは
ちょっと違う様子に…


「おやおやおや〜?
もしかしてー愛しの咲ちゃんと
ケンカでもしたん?」

「何やらかしたんだ、あの子相手に。
あの子じゃそうそう喧嘩なんてのにゃ
なんねぇだろ。」

「やらかしてないっ…、はず、だ…ッ」


バッとスマホから顔を上げ、その勢い
にしては歯切れの悪い台詞を吐く彼に
流石に互いに目配せをし合うメンバー。


「え、一体何ヤッ…」
「『おじさん構文』って知ってるか?」


明らかに好奇心の色の方が乗った声に、
被る様にして問うた真剣な声。
――以上に真剣な視線、表情。

よく見れば、この平常期の朝の彼にしては
色々とスッキリしていない様子は、今の
質問がたった今涌いた疑問ではない事を
物語っている。
恐らく昨夜にでも知ったのだろう。
その、一時期世間を賑わせていた世代間
ギャップな問題定義ネタを。


「ゴッふ!」

「――ぶっは! ぶふっ、へ?え?ナニ
咲ちゃんに言われちゃったの?
『夏輝さんっておじさん構文ですよね』
って???www」

「言われてないッ!」

「ムキになるなよ、真実味が増す。」

「違…ッ?!」

「あーハイハイ。つか…もーおじさん構文
って話題自体が古くね? もう言わんっしょ
それを今更…なっちゃんこういう世間の
話題に疎過ぎな?」

「――そ、そうなのか…?」

「まぁ、廃れて来た感はあるよな。
…ってかある意味標準語的な感じか?
わざわざ話題にする程じゃないけどまぁ
的確な例え話的に出る、みたいな。」

「そーそーソレソレ。」

「そうなのか…俺、昨日添田からの
メールが初見でググって知ったんだよ…」

「…何送ってんだ、添田…」

「あー…? あっ、あの添っち自作自演
おじさん構文? アイツ妙に上手いんよ。
んで合コンとかキャバで鉄板ウケしたもん
だから更に磨きが掛かっちまってんの。」

「…しょーもな」

「まま、そー言うたんなよ。
男のコはモテてナンボでしょー(笑)
んでモテるには鉄板仕込んどかないとネ☆」

「おい、今 構文仕込んだだろ。『ネ☆』
じゃねぇんだよ、しかもお前、アラサーの
オッサン捕まえてオトコノコとか身の毛も
よだつ代名詞を使うのヤメロ。」


ブルブル、と咥え煙草で大袈裟に腕を摩る
秋羅にゲラゲラ笑いながら、「んで?」
と夏輝へと身を乗り出す冬馬。


「んでーなっちゃんは『咲チャンに
送った俺のメールもおぢさんって思われ
ちゃってたらどうしよ⁉️🥺💦』って
思って昨日眠れなかったんだ?www」

「そう言いながら構文を織り込むなよ。
ってかナチュラル過ぎんだろお前のは」

「えー、何よその言い方。
俺が構文オヂサンだとでも?」

「知能は小学生でも容れモンは十分
オジサンなんだからしょーがねぇだろ。
結局は実際オジサンが打ってんだから、
どう足掻いた文面でもオジサン構文にゃ
違いねぇじゃねーか。」

「えー🥺」

「だから台詞に顔文字乗せんな。」

「良く分かるな、秋羅。」

「見てりゃ分かるだろ。見ろよ、この
小憎たらしい顔文字真似た表情。」

「マジムカつくな」

「だろ?」

「えー🥺」

「…コイツ…」


不意にぶん回された夏輝の靴先に、
跳び退けるように躱す冬馬。
その隙にもう一吸い、とばかりに一本
煙草に火を点けた秋羅。


そんないつもの様子を眉間に皺寄せたまま
見ている春。



「………結局、オジサンコウブンとやらは
何なんだ。冬馬がコウブンオジサンで、
夏輝がオジサンコウブンなのか…?」






〜後日談〜

「ねーねー咲ちゃん?
もしも〜、親しい人からおじさん構文が
送られて来たらどーするぅー?」
「あッ、おま…っ」

その翌日、JADEスタジオに春の恒例の
レッスンを受けに来た咲。
それを作業も終えたのにわざわざ待ち構え
ニヤニヤと話題を振る問題児と気苦労の
絶えないリーダー。

「へ? おじさん構文、ですか?」

「え、あ、知ってる…よね?
おじさん構文」

「あっはい、一応。以前宇治抹茶さんの
番組で解説聞きました! おじさんが若い
女の子に合わせて一生懸命絵文字とかを
使って打ってるメールですよね?」


天真爛漫な彼女の答えに、背後で無言で
胸を抑え蹲る夏輝を見て耐え切れず
肩を震わす問題児冬馬と傍観者・秋羅。


「ぶふ…っ、そーそ。そーんな女の子を
オトすのに必死なかーいそーなオジサ…」
「可愛いですよね! 慣れない絵文字も
一生懸命使って近づこうとするくらい
好きって事でしょう?」


ニヤニヤと更なるドツボに案内しようと
した男の企みなど何のその。

可愛い笑顔で男の悪戯心も、裏垢で晒され
続けて来た哀れなおじさんたちの恋心すら
救い上げる天使な彼女。


「キモく、ない?」

「えええ?! …何でですか?
なんか一生懸命で可愛くないです?」

「…マジか。…やっぱ業界でトップを
取れちゃう女の子ってのは結局は芸能界
だろーが何処だろーがその慈愛深さで
天上天下唯我独尊?」

「――咲だからな」

「妙に納得。」

「良かったなぁ、なっちゃん?」

「へ?? 何で夏輝さん?」

「咲ちゃん、なっちゃんが
おじさん構文打って来ちゃってもその
愛情深さで受け止めてあげて…ヨヨヨ」
「打たないッ」

「家宝にします♡ …って、どんなメールも
メモもお手紙も、夏輝さんからのは全部
私にとってはお宝ですから!」


真っ赤になって、でもそのどれもが本気
だと分かる笑顔でニコニコ。

実際、彼女は本気なのだ。
大好きな人からの手紙であればこそ。


でも家宝にされる、なんて思ったら
変な事は書けない(いや、今までだって
書いてないけど!)と思う夏輝。



今年も幸せ
めでたしめでたし。







Happy Birthday NATSUKI ORIHARA♡
xxx 2023.06.06







一年も空いた分の気力と体力を込めて♡







end.

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