Novel


□パウチ
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【 パウチ 】
(=レトルトパウチなどと用いられる
密閉し、そのものを長く保存する方法
またはその袋。)



ガ――ッ、ガ――…ッ

外国製のよく吸う掃除機が轟音で見事に
ミィちゃんの毛や隅々の埃、また主に
私の髪の毛なんてのを吸い込んで行く。

この音をさせるとミィちゃんがいつも
ビックリして逃げちゃうから、基本は
乾拭きモップでのお掃除をして、その
モップに絡まった物を吸い取るのに
扉を閉めた廊下の隅で掃除機を使う位
なのだけれど、今日はこないだから
気になってたソファを、掃除機に付属
した細いノズルで隅々まで綺麗にして
しまおう!と目論んでいた。

久々のゆっくりとした朝。
今日はいつもとは逆で夏輝さんの方が
朝が早くて。私は一人、ミィちゃんを
先ずは避難させてからソファに向かい。


「よし…っ!」


腕捲りをして、髪もお団子に括り、
気合いは十分。

…何でこんなに張り切ってるかと言えば
先日、お気に入りのピアスのキャッチ
(後ろの留め金)をソファで落としちゃって
慌てて隙間に指を入れたら…いつの間に
やら砂とか埃とか髪の毛とかが溜まって
ザラザラになってしまっているのを
知ってしまった。

あの時、結局キャッチは見つからず…
その捜索も含めてのソファ掃除。

夏輝さんに言うと折角のお休みの日に
一緒にしようって言いそうだから内緒で
私だけお家に居れる日にパパパ!として
しまおうと決めて。

夏輝さんお気に入りのこのソファ。
本革とファブリック(布地)とでかなり
悩んで決めた、北欧柄のラグと合わせた
ベージュの本革。少し固めなんだけど
ふかふかしてて気持ちいいの。
身体全部を覆うみたいな密着感があって
…なんて考えてたら、此処で愛し合った
夜の事を思い出し、一人でボン!って
赤くなって。


もっ、もう! 何思い出して…!

頭をぶんって振って追い出そうとする
のに、あの時快楽に溺れて掴んで啼いた
肘掛けとかに目が行ってしまって…


ち、違うからっ!
お掃除するのに、見ただけだからっ


そんな風に一人で言い訳してズボッと
薄手の雑巾を巻き付けた指を突っ込んで
一先ずクッションの合間、そのキツく
重なり合った溝の塵を掻き出した。

ポロポロと散る、隙間の塵。
量的に多くはないんだけど、床に落ちる
そのポロポロはあまり気持ちの良いもの
じゃなく。

またガ――ッと掃除機で吸って行く。


――あ…っ?

掃除機が吸う瞬間、何かがキラッと
光った気がする! キャッチかも!

そう思って中のゴミが見える掃除機の
ボディをトントントン!と叩いたりして


――んー…、違うみたい。

もっと奥かなぁ?
でも指で掻き出すのも限界。
…もうノズルで掻き出しちゃおっかな

そんな事を思いつつ、指よりも硬く長い
そのノズルを突っ込んだ。

ズボッ、グイグイグイ…グ……


んん?

アレ…?

なにか引っかかってる…
ビニール?

ググ……グイッ


え、何コレ…??



ソファの隙間に嵌ってたビニール。
…それは良いんだけど…

そのビニールはチャック付き。
いわゆるジップ◯ックみたいな液体を
入れても大丈夫!みたいな、アレ。
…そう、パウチ袋。

その中に、私のハンカチ。


…うん、私の、ハンカチ。
いつ失くしたのか分かんないけどもう
結構前に行方不明になってたハンカチ。

お気に入りだったから間違いない。
…実はこれ、デビューしたての頃に
モモちゃんに貰ったハンカチがあって、
それがとても使い心地が良かったから
後で探して同じトコで違う柄のを自分で
買い揃えた物だった。


ソファの隙間にビニールはまだ分かる。
ソファの隙間にハンカチも。
かなりクッションの効いたソファだから
何かの拍子に入り込んで、立ち座りする
度に奥に入っちゃったのかなって。


でも、どうしてビニールのパウチ袋に
ハンカチが?

クシャクシャになって、偶々一緒に
出て来たとかって訳でもなく、しっかり
封をされて、ピッチリ真空状態で。

これは意図的に誰かがこの袋に封入した
と見るのが妥当だろう。

誰、は私じゃなくてミィちゃんでも無い
なら、夏輝さんしか居ない。
何故、は分からないけど…

私の、だよね?

まさか、
他の誰かの…って事は無いだろう。

気分はすっかりコ◯ンくんだ。
名探偵? 迷探偵??


なんでパウチされてるのか…
臭いの? それとも何か特別な匂い?
誰かが拾って届けてくれた?

名前も書いてないのに??

全く分からない。
…けど、気になる〜…っ!


だから結局、ソファ掃除は続ける事に
して…一旦保留の末、夏輝さんの帰宅を
待つ事にしたのだった。


そう、この謎の解明を彼に託して。




*
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