Novel


□ガチャ
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【 ガチャ 】
※ コインを入れて回すとカプセルに
入った景品(玩具)が出て来るアレです。
地域により呼び名は『ガチャガチャ』
『ガチャポン』とも…



「うあっぁー! またコレかよー!
10回も回してんのにホントにこれレア
入ってんのかァ? ちっくしょ、もう
こうなったら全部回し切ってやらぁ!」

「…どーすんだよ、こんなにハズレ。」

「ブッブー! ハズレじゃねぇのよ
秋羅サン? コレはコレで巷じゃ人気
あるヤツなの。ネットじゃ高値取引
だってされてるトコもあんだぜ?」

「知るか。どーせ売らねぇくせに。」


大の男が二人、階段の踊り場の、陳列
されたカプセルトイの前に。
一人は階段横の壁に凭れ掛かり、一人
ガタイの大きな男はしゃがみ込み、その
足元には大量のカプセル。男は小さな
機械の前に本気と思わしき視線で中を
覗き込んでいる。


「しっかし、よく出来てるよなぁ…
外からじゃ中、ほぼ判んねぇもん。」

「そりゃそうやって『次こそは!』って
お前みたいな奴に金注ぎ込ませるのが
目的だろうしな。」

「ちぇっ、夢無ぇコト言うなよー」

「何が悲しくて男二人でこんなとこで
人目を避けてガチャポンなんてやって
なきゃなんないんだ…。」

「何だよ、夏輝の迎えまで中途半端な
時間空いたからだろー。どうせ暇なら
有意義に過ごしてぇじゃん?」

「有意義か? コレ?」

「有意義ユーイギ! だってこのガチャ
もう殆ど見ねぇんだよ。」

「あんだろ、あっちこっちに。」

「違うんだなー、シリーズとかあんだよ
◯◯シリーズの店舗限定とか!
なかなか奥深いぜー?」

「…全く興味ねぇな。」

「えー…秋羅、老化じゃねぇの?
新しい物受け付けないなんて。」

「お前が柔軟過ぎんだろ、しかも何だよ
こんな後でゴミにしかねんねぇもんを
集める意味が分かんねぇわ。」

「ゴミじゃねぇっつの!」

「お前は引いた側からその辺に置いて
スタジオでも片っ端から夏輝や春が
捨てて歩いてんじゃねーか。」

「えっアレ春サマもなの?」

「夏輝が捨ててんのは知ってたのか。
この確信犯め。」

「なっちゃん、捨てたハズのフィギュア
拾ってまた同じトコ置いてると、見てて
面白いくらいギョッとするんだよなー」

「…止めてやれよ。あいつ結構神経細い
のに、自分の記憶に自信無くしてハゲ
ちまうぞ。」

「にゃっは! そしたらスキンヘッドに
してJADEも厳ついロックバンドにシフト
すんじゃん。」

「スキンヘッドにゃしねーだろ。」


そんな止め処もない会話に、更なる
登場人物。二人に比べればやや小柄な
金髪の男。


「こんなトコに居たのか! 15分に駐車場
って言ってあっただろ。…って何だよ
このカプセルの山! …冬馬、お前幾ら
注ぎ込んだんだ…。」


明らかにガクッと項垂れる金髪の男。

だが、彼はそろそろ注目を集め出して
いる自分らに気付いて、肩に掛けてた
スコアの入った大きな革製のトートに
床の上の散らばったカプセルを空いた
開いてないに関係なく、ガサッと入れて
仕舞う。


「お、なっちゃんサンキュー。」

「人だかりが出来る前に出るぞ。」

「あーい。」
「あ…悪い。」

「ったく、秋羅も付いてて一緒に
何やってんだよ。」

「おい、誤解甚だしいな、
俺は見てただけだっつの。」

「止めろよ。」

「止めれんのか、コイツを。」

「…無理か。」

「ああ、視力幾つあんのか知んねーが
下の階からこの踊り場のガチャ見つけて
真っしぐらだぜ? つーか多分だけどよ
コレ目当てにこの店入ったんじゃねぇの
店舗限定がどーたらつってたし。」

「あー…無理、だな。すまん。」

「だろ?」


溜息と共に早足で店舗を後にする。
後ろの何人かがサインだの握手だのと
追い掛けて来そうな気配だったが一人に
捕まればかなりの時間拘束されてしまう
のは明白だ。気付かない体で振り向かず
車へと直行する。


「アレ? めっずらし、今日なっちゃん
自分の車じゃ無いん?」

「点検に出してる。朝、何か変な音した
から。…多分ベルトが滑り出したかな
って感じだけど。」

「古いもんなぁ…もう何年?」

「10…、2年、か?」

「なっが!」

「買い換えようとか思わねぇの?」

「そろそろ考えてるよ。
でも咲ちゃんの免許もそろそろ
だろ? 練習用には丁度いいかなって。
最初から買い換える予定だから言えば
そんな緊張しなくていいだろ?」

「うっわ、尽くすなぁー!
こないだ保険も限定解除しちゃったろ?
もーちゃんと口説いてくっついちまえよ
見ててまだるっこしいって!」

「煩いな」

「…まぁ夏輝らしいけどな」

「そーかぁ? 咲ちゃん乗せて
バック駐車した時なんざめっちゃ
オス感出してたくせに?」

「っ、あれはっそんなんじゃ無い
って言ってるだろ!」

「えーあからさまだっただろー!
この策士ヤローめ! 日々虎視眈々と
可愛い咲ちゃん落とす算段
して眠れねぇくせに!」

「そうなのか?」

「な訳あるかっ」

「いんや、悶々モンモン、なっちゃん
ったら咲ちゃんの事、夜な夜な
妄想してヌイちゃってんのよ。」
「してないっ!」

「被るほど即答すんなよ。
余計疑わしいだろ。」

「秋羅ッ」

「ひゃははっ図星ー!」


冷やっと2〜3度下がる車内の温度。


「……お前ら此処で降ろすぞ。」

「(おい、マジだぞ、もうやめとけ)」
「(なっちゃん、咲ちゃんの事と
なるとマジで冗談通じねーからなぁ)」

「…聞こえてるからな?」


がちゃがちゃわちゃわちゃ
JADEスタジオへ戻る車内はいつもの
様子で然もありなん。

賑やかしく向かったのだった。



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