Novel


□ガチャ
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車の点検・修理が終わったとの連絡を
受け、取りに行った平日の昼間。

流石に朝より遅く、昼には早い時間
だからか人通りも少ない。

いつも車を預けるガレージに行く前に
数件予定を済ませて向かってたけど、
小腹も減ったしどこか立ち寄るか…。

そう思って立ち寄ったチェーン店の
サンドイッチ屋。併設してるCDレンタル
の店は学生時代によくお世話になった
系列の店だ。この仕事をしてからは足が
遠退いてたな…何てたって、この手の店
利用してる世代と俺らのファン層は一致
してるから静かに選べないし下手すると
店に迷惑が掛かる騒ぎになってしまう。

自意識過剰って訳じゃなく、本当にそう
なんだから仕方ない。

芸能人なんてやってて、多分…一番の
弊害はこういったお気に入りの店にも
行けなくなるって点だろう。

まぁ行けないなら行かないなりに慣れて
来るもんだけどさ。

でも…取り敢えず借りてみて、っていう
新しい物への取っ掛かりは失って久しい
かもな…。昔はジャケ借りなんてして、
皆でハズレだったの当たりだったのと
批評しあったものだけど…今の俺が
そんな事をしようものなら、どこかで
見てた誰かに呟かれたりしてその借りた
アーティストにまでその噂が派生したり
するもんな…。

数年前に起きたちょっとした出来事を
未だに引き摺る俺としてはもう懲り懲り
っていうのが正直な気持ち。

ジャケットが目を引いて手に取っただけ
なのに、それを写真に撮られ俺がその
アーティストのファンだとか…終いには
JADEとのコラボ予定だとか噂され、
そのアーティストの子も悪い気はしな
かったんだろう、光栄です、なんて呟き
返したものだから変に誤解されて…
アレで春がコラボとかって話に過剰に
否定的になったりしたんだ。

…もう数年前の話だけどさ。
その春がまさかプロデュースまでして
JADEが他の、しかも女の子とコラボする
なんて当時は思いもしなかった。

でもそれは咲ちゃんだから。

彼女でなければ、今でも俺らは誰も
プロデュースもコラボもしなかったに
違いない。

ああ、そうだ。
俺の車も戻って来るし、今週は彼女の
レッスンがある。…また変更にならな
ければ、だけど。

彼女が来る来ないでスタジオの空気は
かなり変わる。…特に冬馬の奴なんて
咲ちゃんが来るって聞いた日は
朝からやたらハイテンションで煩いわ
ウザいわ…春の集中具合もかなり増し
だし、あの物事に動じない秋羅でさえ、
ほんの少し浮き足立った感じがするのは
…俺がそういう目で見てしまってるから
だろうか。


はぁ…咲ちゃん。

まだ誰のものでも無い彼女を、俺だけの
ものにしたい、なんて…周りの男は皆
思ってる。コレは俺の気のせいじゃなく。

冬馬に言われるまでもなく、俺だって
考えてるんだ。恋に鈍くて純真なあの子
…彼女の心に響くにはどうしたらいいか
って。

それと同時にそんな計算なんてなく、
彼女には接したい、なんて思う自分も
居て…彼女に計算だとか打算だとか
そんなの打ちたく無いなんて思う青い
想い。まさかこの歳になってこんなにも
純粋に好きになるなんて…

ああ…
こうしてふと想ってしまう彼女の事。
キラキラと光る大きな目、可愛い笑顔。
その全てを俺のものにしてしまいたい
…そう思う。切実に。


なんて考え事している内にいつの間にか
サンドイッチは食べ終わってて。
見渡せば、平日な上に中途半端な時間の
せいか、都心近くの店なのに閑古鳥。
俺を入れても客は4〜5人いるか居ないか

こんな日もあるんだな…。

どうせなら折角だし久々にCD物色して
みようか…そう思って席を立った。


…眼鏡も掛けてるし、今日は帽子も
被ってるせいかあまり人目を感じない。
それが一般人に戻ったみたいで久々に
伸び伸びして思うままにCDをチョイスし
視聴して…お、コレは中々、と思った物
リストアップして。

流石に此処は住まいの近くでは無かった
から、レンタルまではしなかったけど
充分最近の音楽事情に触れる事が出来た
日だった。時間にもまだ少し余裕がある。

そんな中、見つけてしまったんだ。

自分でも自分の記憶力が嫌になる。
聞くでもなく聞いていた冬馬のガチャ熱
その語り。お前はどこの回し者だよ!
って言いたくなるくらい、熱く語られた
その話の3割は流してしまったけれど
(結構覚えてるもんだ…)何コレクションの
何シリーズかはしっかり覚えてて。

…あるじゃ無いか。

冬馬がこの間別の店舗で空っぽにした
あのガチャ、正にそのシリーズ。
しかも横には対比して『コレじゃ無い』
と熱く語ってた第2弾。
第2弾はパンパンに入ってるのに対し、
冬馬の言うとこの『神コレ』な第1弾は
ガチャの機械の半分程度。

んん…念の為『お前の好きなあのガチャ
見かけたけど小銭が無かった』って理由
まで考えて確認した財布の小銭。

…あ、くそっ結構入ってる。

そう言えば行きしなにコーヒー買うのに
万札崩したんだっけ。昨日、猫缶安売り
してたから纏め買いしようとしたら、
そこクレジット使えない店でさ。しかも
変な運命感じちまうくらい丁度だった
財布の小銭もピッタリの支払い金額に
気分良く買い物しちゃってたから。

ジャラジャラと小銭を出し回せるだけ
回すか…と思って回したのが運の尽き。



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