Novel


□Gold License
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【 Gold License 】
(=ゴールド免許)



『そう言えば咲ちゃん、
免許は持ってないの?
自分の車とかは考えて無い?』


多分、きっかけはあの言葉。
その時彼女は思ってもみなかった、って
反応で、明らかにそれまでは考えた事が
無かったようだった。


『えっ? あ、そうですね…高校の時、
3年生になると取りに行ってた子も居た
けど、私はその頃デビュー前のレッスン
と学校一色で…。』

『これからは? 自由度増すよ?
取ってみたら世界が広がるよ。』



俺が与えたきっかけ。
彼女が望んだ自由。

でもそれは、山田さんっていう守護者の
目が届かない場面が多くなるって事。

冬馬に言われるまでもない。
彼女が自分で移動するようになったら
絶対に彼女を狙う連中が動き出す。

…その前に。


彼女を変えるきっかけになれた事は
嬉しかったけれど、焦りも生まれた。

だから、先ずは彼女に誠実さをアピール
する為にも、また今の状況でなら一番
近くに居られる方法にもなるから、と
保険の年齢限定を解除した。

俺の車(テリトリー)に、彼女を招く。
それは今までも送り迎えでして来た事
だったけど、これからは助手席だけで
なく、運転席にも。

そして、出来る事なら俺の車だけ、
彼女には乗って欲しい。

――そんな事を思う俺は計算高いのか。


俺だって彼女の自由を奪いたいなんて
考えてない。…ただ、他の男にこの、
近しい距離は許さないで。

…唯そう思うだけで。


コーヒーショップの車庫入れに関しては
本当に最初から計算してた訳じゃない。

コーヒーショップ寄ろうか、って提案
して、駐車場の車庫入れで彼女が躊躇
した時、あの時まではそんなつもりは
全然無かった。

彼女に及ぼす影響を意識したのは…
実際に車庫入れしようとグッと彼女側に
寄った瞬間。

ふわりと鼻腔を擽った彼女の香り。
スキンシップ過多の冬馬から彼女を庇う
時くらいしか踏み込まない、至近距離。

…そう、言うなれば『恋人の距離』と
言われる45cm未満の、触れ合える距離。

淡い、でも甘い香りに触発されて思う。
ああ、彼女を抱き締められる、それを
許される立場になりたい。
…ある意味冬馬はそれも無しに平気で
あんな風に触れてる訳だけど。
俺にはあんな風には無理。
キャラじゃないし、誰でもあんな事を
して退ける冬馬と違って絶対しようと
しただけで意識し捲って挙動不審。

好きなんだから当たり前。
好きな子以外にしようとは思わないし。
…って、だから逆に意識してしまうん
だけど。…悪循環だよな。


なんて、一瞬の間にグルッとして。


――でも、期待してしまった。


間近で見た彼女の瞳。
俺の希望的憶測か、…或いは勝手な
思い込み?

ほんのり朱の走った頬。
俺を見て、少し潤んだ瞳、目が合えば
柔らかそうな頬はピンクを増して。


咄嗟にオトナな男の仮面を被った。
何の気も無いような、さり気なさと
でも、グッといつも以上に体を捻り、
運転席に手を当てて後ろを覗き込んで。

…そう、確かに狭めの駐車スペースで
後ろにはお洒落な鉢植えが並べられてる
から注意して確認はした方が良いんだ
けど…何度も来てる、結構お気にの
このコーヒーショップならスペースは
大体頭に入ってる。前だけ見てたって
普通に停められるくらいには。

だけど わざわざ身を乗り出すように
運転席に近付いたのは確かに計算。
勿論、そのまま不埒なコトをしよう
だなんて思っちゃいなかったけど。
…そんなの、当たり前だろ。
大切に、でも確実に搦め取りたい大切な
女性(ひと)なんだから。

――だから、逆に何も感じてないフリ
してシレッとしてたのに。

後で冬馬に言い当てられ、…まぁ彼女の
前で、で無かったのは助かったけど…
物凄くバツが悪かったのは事実。

何か、こう…家族に、付き合いたての
彼女とのラブラブデートを見られて
しまった中高生みたいな気持ちとでも
言ったらいいのか…。

あいつらにはもう、俺がどれだけ彼女に
嵌ってて、本気で惚れてるのもバレバレ
だから今更っちゃ今更なんだけど。
…その、手の内までもがバレてしまって
次の手段に腰が引ける、というか…。

いや、かと言って諦める、とか況してや
他の男がリーチ掛けるのを黙って見とく
とか冗談じゃない。

…だから、本気で
誠心誠意、彼女を口説いてモノにする。
モノにする、って言い方は好きじゃない
けど、でもチャンスをモノにして、
彼女を振り向かせる。

絶対。

その為の手段は選ばない。
…いや、悪どい遣り方で彼女を騙したい
訳じゃないから、ちゃんと正攻法で
口説くけど。

…だから、邪魔すんなよ?
今回ばかりは余裕の無い俺。

だって彼女の免許取得はもう目前。
仮免許の今だから、今からスパート。
周りの男共に抜かれる前に。



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