Novel


□ドキドキ狂想曲
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そこからは何かにつけ、うちのメンバー
だけで無く…彼女の周りの男たちの、
水面下での牽制し合い。

特にJADEの水城さんなんてあからさま
だった。俺たちと彼女が話してたら必ず
横から現れて彼女を強引に攫って行く。

警戒心の薄い彼女の腰に気軽に回される
太い腕。持ち上げられ、際どい角度で
晒される彼女の白い脚。
俺たちは慌ててそんな彼女を庇ったり、
隠したり…場合によってはそんな強引な
水城さんから奪い返したりして。
…成功率はあまり高くは無かったけど。
それ以外にも彼女との冠(番組)を持つ
宇治抹茶とか、よく共演してる白鳥さん
とか…彼女を狙う男の名前を挙げたら
キリが無い。

でも、彼女との距離の近さで言えば
確実に俺たちだった。…彼女の唯一の
プロデューサーって意味じゃ確かに
神堂さんやJADEの名前は上がるけど
年齢的にも活動の場的にも立場的にも
その心理も心の近さは確実で。
売れっ子ゆえの悩みやキツさ、その
時間の上手い回し方など…いつだって
話題は尽きなかった。
また共演に比例した一緒に居る時間の
多さ…そのどれを取っても。


ある日、そんな彼女が俺たちの番組に
ゲスト出演で互いにその日は最後の収録
ってなった日。…何とか天辺は越えずに
済んだものの深夜という時間。

そんな時間の上がりだと言うのにその日
咲ちゃんは別口のクレーム処理で
戻れないと言う山田さんの迎えでは無く
タクシーチケットを持っていて。

仕事終わりで迎えも無い、なんて滅多に
無いチャンスに皆から俺らの反省会にも
誘われて居残ってくれていた。
本当は早く帰りたかったかもしれない
のに、そんな素振りは一切見せず…いや
俺らには嬉しそうに二つ返事してくれた
様に見えていて。

差し入れの菓子を食べながらの反省会。
いつもならもっとガチな感じなんだけど
今回は彼女も一緒だから何処か反省会
よりは駄弁り合い色が強く。
それは皆気付いてたけど、楽しいから
いっか…って空気になってて。
俺はリーダーとして本当は此処で場を
締めなきゃいけなかったんだけど、でも
やっぱり俺も彼女が一緒って言うので
何処か浮かれを消せなくて。

…やっちゃいけない、局での酒盛り。
しかも俺らメンバーだけで、じゃなく
彼女も交えて、しかも夜半過ぎ。
一応皆成人してるとはいえ。
酒を持ち込んだのはタブー破り常習犯、
京介と翔、それから確信犯の亮太。
…義人は口だけは止めてたらしいけど
結果としては共犯。
俺がうちのスタッフに反省会を口実に
楽屋の、後の戸締りを引き受ける話を
している間に…楽屋の畳間ブースにある
テーブルの上に菓子とツマミと缶ビール、
甘めの酎ハイなんてのが並んだ酒盛りの
席が出来上がってて。

って言うか…俺が戻ったら皆、既に酒に
口を付けていたって状態。
慌てて楽屋の扉の鍵を掛けた俺。
皆ニヤニヤ笑ってて、彼女だけが
『いつもこうなんですか?』って顔。


――そんな事、ある訳ない!

「咲ちゃん違…っ」
「滅多にこんな事しないんだけどね?」


被せられる京介の言葉。


「そうそ、まさか反省会の度に酒盛り
なんてしてたら1回や2回は何らかの
失態でスクープされてるでしょ。」

「…あり得るな」

「わー怖い怖い。島田さんの般若顔と
仕事干されて露頭に迷う翔ちゃん?」

「何で俺限定なんだよ!
酒癖悪いのは京介だろ!」

「京介が悪いのは女癖。しかもそれ、
酒が理由じゃないから…言うなれば
天性? 天然? 生まれつき?」

「つまりは唯の女好きか」

「え…」

「…お前らね…、
違うからね? 咲ちゃん」

「何の誤魔化し? ほら咲ちゃん
酒の入った京介からはいつもより更に
距離置いてー」

「え? …(くすくす) はぁい。あれ…?
翔くん、お酒弱いの? もうまっか…」

「京介がザル、義人が枠(ワク=ザルより
更に強い)、俺は普通かな。翔は弱くて
一磨はいつもハンドルキーパーしてて
飲まない事が多いかなー」

「俺は弱くは、ないっ!」

「いや、弱いでしょ」
「間違っても強くはない」

「もう既に真っ赤だし。
…それを言うなら咲ちゃんも、
だけどね? 大丈夫? もしかして初めて
飲んだって事は無い…よね?」


言いながら不安な声になった亮太。
その見開いた視線に、えっ?! と思って
彼女を見れば…翔と同じ位真っ赤な顔で
缶酎ハイを両手で持ってふわんふわんと
揺れている。


「わ…っ、咲ちゃん?! 」

「…あ〜あ、やっぱり、かぁ…。
乾杯して一気に煽ったからあれー?
意外にも飲めるクチ? なんて思ったら
予想を裏切らないなぁ」


「そんな事言ってる場合か! 水!」


慌てて彼女の手にした缶を奪えばもう
半分は無くなってて。ぽやん…と俺を
見上げたそのうるうるになってる瞳を
見てグッと詰まる様に込み上げた何かと
引いた血の気。



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