Novel


□恋愛指南
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【 恋愛指南 】


俺が春に紹介した、咲ちゃん。
案の定俺を魅了した彼女の声は春を魅了し、
世間を魅了した。

春のプロデュースを受け見事花開いた彼女。
今では彼女のその素直な性格と優しい喋り、
その愛らしさでCM女王なんて言われ、CMは
勿論、各種バラエティからドラマ、映画まで。
テレビで彼女を見ない日は無い。

テレビ離れが噂される昨今なのに、彼女が
出てる番組はこんなご時世でも高視聴率を
叩き出してて、業界では弱小事務所なんて
言われてるラビットの快進撃が続いている。

その事務所の小ささと彼女の人気の反比例が
陰湿な嫌がらせに繋がったりもあったと聞く
けど、それも最近ではその魅力でスタッフ
すら味方につけた彼女の一人勝ち。

…そんな彼女。


――最初は気のせいかな、と思った。
まさか、とも。

確かに彼女の落ち込んだ時に偶々遭遇して
俺が慰めたり、またこの業界の先輩として
問題の打開法を授けたり惜しまずに協力も
してきた。

素直な彼女。
一つ一つ、俺に心開いてると分かる言葉に
隠せない好意が滲み出る仕草。

ドキッとしては、いやいやまさか…なんて
思って 考えないようにして来た。


…でも
可愛いらし過ぎて。



春のレッスンで俺らのスタジオに週に1回
通って来る彼女。最初の頃は週に2〜3回、
来れてたけど最近じゃ仕事が増えて週に1回
…どころか下手すると10日〜2週間に1回に
なってしまう日も出て来てる。

そんな中、いつも忙しい中時間を絞り出し
息を切らして階段を駆け上がって来る様は
本当に真面目で真っ直ぐで…素直で可愛い。

しかも俺を見つけるとパァッと笑顔になって。

こんなの…
誰だってドキッとするし、
間違いなく絆されちまうよなぁ。

元から可愛い顔、優しい喋り、気ぃ遣いで
丁寧な言葉遣い。
…それだけでも十分印象が良いのに、
更にはこんなにも好意ダダ漏れで。


――正直に言う。
めちゃくちゃ可愛いし、愛しい。


恋愛は今んところイイかな…なんて思ってた
筈の俺でさえ、つい…彼女となら、なんて
思ってしまうくらいに。


そう思いながら今日もスタジオで…俺らの
作業なんてとっくに終わってんのにダラダラ
ギターの後片付けをしながら彼女の到着を
待っていて。

その時点で十分もう惹かれてて、彼女に
嵌ってしまってるよな…なんて思う自分は
知らんぷりで横に置いて。他のメンバーも
それは同じらしく奴らは喫煙室に篭って迄
居残ってる。





…あれ? 珍しく遅いな…。


いつもなら予定の時刻より早めに着く
(無理してでも着こうとする)彼女にしては
珍しく、何の連絡もないまま過ぎた10分。

流石に何の連絡もないのは変だ。

あの春も気にしてミキサー室から出て来た
のを見ると、春にも連絡が無いようだ。


「夏輝、咲からの連絡は?」

「まだ。…春んとこにも入ってないんだな?
電話はした? え、繋がらない、って…」


春の言葉に耳を傾けながら俺も自分の携帯で
彼女を呼び出す。聞こえたのは春と同じく
携帯の電源が入ってないとのアナウンス。


「…やっぱ変だな。でもスグ来るかもだから
春は待機。…あ、一応山田さんには電話して
確認取ってみて。念の為、俺は彼女に架け
ながら車でその辺見て来るから山田さんとの
結果は連絡して。」

「――分かった。」


鍵を掴んでダッシュで降りる。
俺のその様子に冬馬たちが喫煙室から出て
来たのは目の端で気付いてたけど、春、説明
よろしく! なんて丸投げして。

ダダッと駆け降りた階段。
俺が駐車場まで走り出た所に坂を上がって
来た、見慣れない車種。

とっさに運転席と助手席に目を凝らせば…
俳優の白鳥くんと、咲ちゃん。

目をまん丸くした咲ちゃんが慌てた
様子で降りて来る。


「夏輝さん? えっもうお帰りですか?
…って、あっ、時間っ! ごめんなさいっ
遅くなりました! 私のナビが不十分でっ
あっあの…わ、私プライベートの方の携帯
今日お家に忘れちゃっててっそれでっあの
お仕事の方ナビで使ってたら充電が途中で
切れちゃったんです…って、あっ夏輝さん
お急ぎな様子だったのにすみませんっ」

「…おい咲、落ち着け。」


アワアワと小動物みたいな彼女の様子に、
事故とかじゃなかった事にホッとしつつ…
運転席から彼女の隣に降り立った白鳥くん
とのその親しげな様子にちょっとモヤり。

でもそんな様子は微塵も見せずに余裕な
JADEリーダーの仮面を張り付ける。


「ああ、良かった。いつもなら遅れる時は
必ず連絡する咲ちゃんが連絡無しに
遅刻だから何かあったのかと。…今探しに
行く所だったんだ。近くまでは来てるかも
って。もし何か困った事になってたら…
って思ったしね。…えっと、白鳥くん?
こんな所まで彼女を送ってくれて有難う。」

「…あ、どうも。
…どうせ俺も帰るついでだったんで。」

「あっ、隼人さんっ有難うございました!
私のナビが下手っぴで遠回りさせちゃって
ごめんなさいっ」

「いーよ、お前にナビを任せた俺が悪い。
…つーか送るって俺から言っときながら
遅れさせちまって悪かったな。」

「そっそんな! 助かりました!」


恐縮してる彼女の頭をワシャワシャにする
その距離の近さは秋羅だって彼女によくする
事だけど、その手の馴れ馴れしさにムッと
来る自分が居た。

…何とかそのムカつきは出さずに張り付けた
笑顔のまま飲み込んだ傍から、揶揄する声。


「…へぇ、こんな都心から離れたトコが
『帰るついで』ねぇ…。俺様俳優と名高き
白鳥パイセンって親切ゥ〜」

「冬馬っ」



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