Novel


□Memories DAY
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「へ? え?? うん…? でも何で…?」


急に出た特定の、しかも懐かしい固有名詞に
頭の中はハテナで一杯。
そしたらその問いに答えるでなく、その写真を
ジッと見つめてた翔くんはバッと顔を上げ、
私をジッと見つめた。


「――咲、ちゃん…?」

「はい?」


噛み締めるように私の顔を見つめ名前を呼ぶ
翔くんに、返事をする。

でも…その、どことなくいつもの名前呼びとは
違うイントネーションに違和感を覚えて…。


「咲ちゃん、覚えてない? 俺っ翔!」

「???――ウン、翔くん、だよね???」


ガッシ!と掴みかからんばかりの勢いで肩を
掴まれ、すっごい至近距離で自己紹介?をされ
更に頭の中はハテナだらけの私。


「…あのさ、咲ちゃん…思うに翔は昔、
咲ちゃんを知ってた、つまり知り合い?
って言いたいんじゃない?」


ドウドウ、と目を白黒させてる私から翔くんを
人一人分離してくれたのは亮太くん。
そして更にさり気なく私を後ろに引いてくれた
のは義人くん。


「翔、かもめ…第二?小学校で二人が一緒
だったって事?」そう要約してくれて。

「えっそうなの?!」

「…ぷッ、…翔? 咲ちゃんは全然
記憶に引っ掛かっても無いみたいだけど?」

「京介ッ」

「咲ちゃんっ、覚えてない?
ほら、よく一緒に帰ったよ俺たち。この道、
フェニックスの前で話したの覚えてない?」

「え…?」

――フェニックスって…あれは別にみんなが
言ってた通り名じゃ無くて、あの男の子が…
え、あの子の名前、何だったっけ…?


「あーあ、翔ちゃん撃沈。」

「京介、言い方。」

「咲ちゃん、思い出して!」

「翔ちゃん、そんなグイグイ行くのは逆効果
だと思うんだけど…。何?そのフェニックス
…不死鳥?? 凄いネーミングだけど」

「あ…この金木犀が羽を広げたような形で。
それをある男の子が『フェニックスだ!』
って…。それから私たちだけこの金木犀を
フェニックスって呼んでたんです…。」

「その子が翔ちゃん? …ぷフッ、
ネーミングセンス、まんま翔じゃん!!」

「亮太!」

「…咲ちゃん…そこまで思い出してて
それが翔だってのは思い出せないの?」

「…義人もそんな纏めしなくていい。」


愕然と項垂れる翔くんに、でもどうしても、
あの時の声高で元気の良い男の子が翔くんと
同一人物だという決定的な確証が持てなくて…


「あっ、咲ちゃん、確かこの辺に…
あ、あった! これ翔の小学生の頃の写真。
コレだったら思い出せるんじゃない?」


テーブルの上の散らばった写真の中から1枚を
取り出した一磨さん。それはサッカーボールを
手に、ニカッと笑った男の子で…。

今の翔くんよりずっとお顔も真ん丸で、目は
今と変わらず大きいけど、もっと元気一杯!を
絵に描いたような…その子の写真を見てたら
当時の声と台詞、それに身振り手振りまで凄く
詳細に記憶の中で再現されて。


「…ッあ! ショウくん…?!」


やっと繋がった点と点の記憶が線に。
高めの声で元気一杯で、いつも遠くからでも
私の名を呼んで走って来た男の子、その記憶。

パァァァァッ!と輝く翔くんの笑顔。


「思い出した?! 久しぶり! 咲ちゃん!」

「いや、ずっと会ってただろ。」
「何なら今日共演しての今だし。」

「亮太、京介!」

「…感動の再会?」

「今まで散々会ってたのに、双方とも
思い出せてなかったけどね?」

「京介…意地の悪い言い方するなよ。
幼馴染の再会で翔もこんなに感動してるのに」

「っていうか、そんなんでも幼馴染とかって
言えちゃうの? 何かそれはズルくない?」

「それね。ホントそう。ってか翔ちゃん多分
その路線でリーチかけようとするでしょ。」

「は? させないけど?」

「――そうはならなそう。」

「へ?」

「亮太も『へ?』って言っちゃってんじゃん」

「いやだって。…何でそう思うの義人。」

「会話、聴いてみ」



「咲ちゃん、元気だった?」

「うふふ、やだ翔くん、ずっと元気よ?」

「俺ずっと咲ちゃんの事忘れて無くて…」


「(今の今まで忘れてたクセに?)」
「(それな…)」
「(いいから黙って聞いて)」


「ごめんね…なかなか思い出せなくて…」

「ううん、いいよ!
結果的にこうして思い出してくれたから!」

「翔くんもよく覚えてたね?
…でも私、泣き虫だったから良い印象は
無かったでしょう?」

「え…っ? 誰かにイジメられてたの?!」

「…イジメめられてたっていうか…私、
鈍臭くてよくボールも投げられて…でも
受け取れなくて当たっちゃってそんなんで
よく泣いちゃってたし、セミの抜け殻とかも
急に渡されて投げ捨てて逃げちゃったし…」

「…あ……。」


「(あー…小学生男子好きな子へのチョッカイ
…あるある? 女の子に有難迷惑な…)」
「(咲ちゃんみたいな子はトラウマに
なっちゃう系のヤツじゃん?)」
「(……だな)」


「ごめんね…私、たぶんあれから男の子、
苦手になっちゃってたみたいで…それで
あまり記憶に無かったのかも…。
翔くんも、そう?」

「え…ッ、いや、俺は…」


「(あーあ、翔、語尾弱々じゃん)」
「(そりゃそうなるだろう)」
「(咲ちゃんに悪気も責める気もない
のがまた…遣った側から謝罪も言えないやつ)


「あれに懲りずまた仲良くしてね?」

「うん……こちらこそ…。」

「うふふ、でも凄い偶然!
あの男の子が翔くんだっただなんて。」


「(うわ、咲ちゃんそれトドメ!)」
「(いや…咲ちゃんの怖さは
こんなもんじゃないでしょ。)」
「(どういう意味だ? 京介)」
「(まぁ見てなって。)」


「ショウくん、すごく優しい男の人に成長
したんだね。すごく素敵になってて、国民的
アイドルだなんて凄いよね…!」

「咲ちゃん…っ」


「ハイハイハイ、ドードー。翔ちゃん
スグ抱き着こうとしない。」

「ほんっと油断も隙もないな」

「まさかのソレ、京介が言う?」

「言い得て然り…」


そんな偶然の記憶の擦り合わせだった。



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