Novel


□お姫様と王子様
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どれ位その様子を見ていただろう。

バタついている現場では上手いこと
プロデューサーと確認が出来ないのか
さっき見失ったスタッフはまだ来ない。

咲ちゃんに来たって合図しようにも
大きな男達に阻まれて、目が合わない。


…なんだろう、ムカつく。

自分でも分かる、身勝手なイラつきに
押されて、1歩踏み出した瞬間。


「ダメじゃん、」


聞き慣れた声が後ろから追い越し、


「お姫様奪還〜!」


周りの男達より更に少し高い冬馬が
咲ちゃんを背後からハグした。


「きゃっ?!…冬馬さんっ?」


イキナリのでっかいおんぶお化けに
咲ちゃんのひっくり返った声が
響く。


「っ…冬馬っ!!」


ズカズカ群れに突入して咲ちゃんから
冬馬を引き剥がす。

腕の中には、ふわふわの衣装を着た
いつもよりもっと柔らかな咲ちゃん。


「えーっ、リーダー横暴〜!
我らがJADEのお姫様を数多の
ライバルから城へ奪還しようとした
だけなのにー!」


「その場合、お前は城で飼い慣らしの
ドラゴンな。」

「…城とは…楽屋か?」


振り向くと秋羅と春。


「楽屋で待てど暮らせど打ち合わせ
スタッフはおろか、リーダーも戻って
来ないから、なーんか揉めてるのか
と思ってさ」


秋羅がとん、と軽く俺の肩を叩く。


「あ、ごめん。ここまで来て
スタッフ見失っちゃって…」

「えー?ドラゴン〜?
カッコイイ騎士希望なんだけど?」


「え、あっ…なっ、あっ、しっ…
夏輝さ…!」

「…咲、落ち着いて。」


咲ちゃんを腕に楽屋のような
会話を繰り広げる俺達に、腕の中の
彼女は衣装で剥き出しの肩まで真っ赤だ

多分、冬馬の腕から更に奪還された
俺の腕の中、現れた秋羅と春への
挨拶をとパニクってる模様。

どうしよう、
可愛いくってしょうがない。

咄嗟に腕に囲ってしまったものの、
離したくなくなって…困る。

このままギュッとして誰の目にも
触れさせず、攫ってしまいたい。

…でも、まだ彼女はJADEの、
皆のお姫様で、俺だけのものじゃない。

多分、きっと自意識過剰じゃなくって
…今、咲ちゃんの一番近くにいるのは
俺達。
春がプロデュースして既にJADEとも
2曲コラボしてて、彼女のドラマの
挿入歌である新曲もコラボで、
PVだってCMにも起用されてて、
現在の彼女の活動の多くを共にしてる。

…でも、それだけだ。
咲ちゃんが最近、確実に
俺しかいない時間からウチの楽屋や
スタジオに必ず来るようになった、
とか。

俺と目が合うとパッと頬を染めたり、
はにかんだような…
綻び始めた蕾のような笑顔を見せたり…

例えそれが、さっきずっと見てた
あの群れの中ではただの一度も
見れなかったり…

色んな符号が合致したって、まだ。


まだ、咲ちゃんは皆のお姫様。



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