Novel


□だいすきなひと
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【 だいすきなひと 】


女の子が大好きな、それでいてとても
寂しがり屋なあの人に魅かれた。

最初はその気さくなスキンシップに凄く
驚いて、次第に何故か心地良くなった。
他の人に同じ事をされたら、きっと私は
ビクリと構えてしまうと思う。

だけど、彼だけは。


「お姫様だっかーん!」


ぎゅうっ

「もう!冬馬さん!」

「うわ!また水城さん!なんなんすか!
咲ちゃんから離れて下さい!」

「や〜だねっ!」


Waveの皆さんと一緒にお話している時
または他の演者の方々とお話している時、
JADEの皆さんが同じ番組に出演する
日は…必ず冬馬さんが私を攫いに来て。

その太くて熱い腕でいとも簡単に私を
絡め取って、冬馬さん以外の方から隔離
してしまう。

そして、お姫様…は冗談にしてもいつも
私をJADEの皆さんの元へと連れ帰る。

最初の内はそれがどういう事かだなんて
考えもしなかったけれど、そうやって
冬馬さんが私を攫う度に、業界の中でも
またそれが漏れ伝えられて世間的にも、
私は神堂さんが唯一プロデュースする
JADEの妹分とも囁かれ、また最近では
畏れ多くもあの神堂さんの恋のお相手だ
とも噂され…

いつの間にかJADEの皆さんと一括りに
される事が多くなった。
キャリアも事務所も実力も、全てが違い
過ぎるというのに。

それは私にとっては本当に恐縮せざるを
得ない事で。

いつも連れて行かれる楽屋。
今日はたまたま神堂さんも夏輝さんも
何かの御用事でいらっしゃらない中、
あまりの申し訳無さで思わず冬馬さんに
言い募ってしまった。


「あの…冬馬さん、こうやって私を
構って下さるのはとても有難いんですが
最近…あの色々噂されてて…私なんかが
JADEの皆さんにご迷惑を掛けるのは」

「なーに言ってんの!噂?噂なんかじゃ
無いじゃん!咲ちゃんはJADEの
ウチの春のプロデュースするJADEの姫
…つまりはお気に、でしょ?
噂でも何でも無く事実じゃん!」

「え、いや、あの、でも…」

「冬馬、俺らにとっては良くっても、
彼女にとっては迷惑かもしれんぞ?」


ふ、と苦笑を浮かべられた秋羅さんに
頭が真っ白になる。


「っち違います!! わ、私は私なんかが
JADEの皆さんと一括りにされるのは
その…皆さんにとって何もプラスになる
ものが無い、それ所かマイナスなんじゃ
ないかと思って…!」

「咲ちゃ〜ん?その理論で行くと
ウチのあの春サマの目が節穴だって事に
なっちゃうんだけど?」

「えっ!…え?ぇええ?」

「そうだよなぁ。それに俺らは今更他の
プラスを充てにしなくても充分な評価が
有ると思ってたんだが、気のせいか?」

「そ、そんな!」

「あーきら、そんな意地悪な言い方なんか
すんじゃねーよ。咲ちゃんが今にも
泣きそうになってんじゃん?」


ぎゅうっと腕の中に仕舞われてヨシヨシ
と頭を雑に撫でられる。
ワンちゃんにするみたいに。


「や、あのっ冬馬さん髪っ!」


いつの間にか深く抱き込まれてワシワシ
って髪の毛もみくちゃにされて。
ふと見上げると冬馬さんの顔には全開の
笑顔。



ドキッとした。
あまりのその優しい笑顔に。

その男の人な表情に。




「おー? 咲ちゃん、今
俺にドキッとしたろ?」





ビクリ。



余りの図星に震える肩。

血が耳から吹き出ちゃうんじゃないか
って思う程に血液が耳から顔から頭まで
逆流する。


「…え…っ?」


茫然とした冬馬さんの顔。

私はもうどうする事も出来なくて涙目で
湯だった顔で彼を見つめる。


「……っ」



「ええええ?! 」




「…冬馬お前、鈍過ぎだろ。」




この時から私たちの恋は始まった。



*
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