Novel


□だいすきなひと
2ページ/5ページ


開けっ広げな彼との恋は、直ぐに周りの
皆に知れ渡る事になると思ってた。

想いを知る前からあんなに好意を示して
誰の前でもハグして抱っこして。
そんな人だったから。

それは実際、両想いになって彼のものに
なっても変わらなくて。

ううん、変わらないって訳じゃないけど
…その、もっともっと人前でのハグは
多くなったし、他の人たちと話してる中、
攫われる事も多くなった。


だけど、変わらなかったのは周りの目。


それは…黙認はするけど公表は許さない
っていう事務所サイドの方針で。

彼は有名なJADEの実力ドラマーで
いつも周りを綺麗な女の子に囲まれて。
そんな人だったから私に構ってても特に
噂にもならず。
彼の傍から他の女の子が居なくなっても
何故かそれは変わらなくて。

…多分それは、私は彼とは不釣り合い
だからと思われてて、それで噂にも全然
ならないんだとは何となく感じてた。

でも事務所の方針とかそういうので、
この恋については誰にも言えず。

知っているのは家族とJADEの皆さんと
事務所だけ。



***



「彼女を守るためだろう?」

「今までのお前の行いが悪いのが悪い」

「今は取敢えず忍んどけ。」


メンバーにも公表は反対されて。
理由は俺の素行の悪さ。

って別に女の子騙した事も何かの記事に
なるような事もしちゃいないんだけど、
どうにも気軽に肉体交渉ってヤツで交流
取ってたのが仇になってて。

俺との噂=彼女が遊ばれてる、あるいは
彼女も遊び歩いてる子なんて図式になり
兼ねないと皆が心配して。

ウチの事務所的にはコレで俺の女遊びが
治まるなら…って思ったみたいで、特に
文句は付けられなかったんだけど…ただ
やっぱり相手は春が唯一プロデュースを
してる稀代の歌姫で人気も実力もあり、
無いのは経歴くらいのもんだったから
もしも(拗れたり別れたりって事?)の時
の為にも気軽な公表はするべきではない
との見解。

もちろんそれはラビットさんも同じで。
俺たちがどれだけ本気ですって言っても
やっぱり俺の過去が災いして直ぐには
承諾して貰えなかった。

でも多分彼女が一生懸命山田さんを説得
してくれてたんだと思う。俺には何も
言ってはくれなかったけど。

それで何とか勝ち取った黙認の関係。

基本的に問題は俺だけにあるから、俺が
ここでしっかりしないといけなくて。
そんな事は重々承知だったから渋々では
あったけど、互いの事務所やメンバーに
内々に(つまり彼女には内緒で)出された
条件をクリアする為に努力の日々。

まずはもちろん、他の女の子達と遊び
歩かない。これはアタリマエ。

それから合コンや酒場での戯れも禁止。
これに関しちゃ俺主催って事は今までも
無かったから、そういうのがある場所に
近付かないって事で。

それから、仕事優先。
…これはプロなら当たり前っちゃ当り前
なんだけど、少し、ダレ気味だった事も
あったりして、意識改革を行った。

無遅刻無欠勤、これが思ったよりも俺に
とっては難関で。秋羅と夏輝の協力で
何とかギリギリ。

そんなこんなで1年経って漸く公表迄の
ゴールがやっと見えてきたかなって状態
で。


でもさ、最近思うんだよな。
いくら事務所の緘口令があったとしても
あまりに俺らの噂、立たな過ぎじゃね?

いくら彼女を掻っ攫っても、湧いて来る
虫どもは減りゃしないし、それ所か最近
ますますわんわん集られてる。
奴らの羽音で彼女に俺の声が届かないん
じゃねぇのって心配になるくらい。


あー!早く公表して彼女は俺のものだ!
って皆に宣言してぇ!

俺のもんだ、近付くなって。


…溜息。


彼女は俺の。
それは彼女も了承してくれてて、彼女の
パートナーは俺だけだって俺の目見て
誓ってくれてて。
心の上じゃもう夫婦。

いやカラダだってそうなんだけど。
あ、最後の条件として確実な避妊をする
ってのはコレ絶対条件で。そういう意味
じゃ本当の夫婦ってんじゃまだ無いんだ
った。

だから、早くそういうの取っ払いたくて
俺にしちゃー一生懸命努力して。

彼女の事も離さない様に一生懸命愛して
愛して抱きしめて。

実家からも攫う様に同棲に持ち込んで。

ってここまでしても噂にならないって
どっかで圧力掛かってんじゃねぇの?


…また溜息。




「なんで水城さん俺らが咲ちゃんと
居ると必ず邪魔すんですか!!」


――彼女は俺のだから!
カ――ッ言ってやりたい今直ぐに!

だけどまだ条件はオールクリアまであと
少し。ここでキレたら水の泡。


「俺、彼女の騎士(ナイト)だからさ♪」


今まで通り軽〜い感じで受け答え。
それしか今は出来ないのがじれったい。


「でもそれって王子じゃないんでしょ?
王子の元に守って連れてくのが騎士の
役目なんですよね?」


――うわ、もうこの子、ミケ君嫌い。

いつだって痛いトコを的確に突いて来る
しかも、Waveの中じゃ咲ちゃんと
一番接点も多い彼は、やたらと俺を牽制
してんの丸解り。

くそっ、俺だって俺が彼女唯一の王子だ
って言いたいさ!
しかもそれは事実なんだから!

それこそ君にだけはしっかりとさ!

あと勿論Waveのお色気担当流し眼中西
にも!この2人には特に言いたい。

俺と彼女はもうとっくにお互いのものに
なってんだって!


あーもうくっそう、今に見てろ!



*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ