Novel


□ドッキリ
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【 ドッキリ 】


今回のお仕事は昨日から所謂前乗り
(仕事前日泊)でWaveの皆さんと
お泊まり。

実は今、私は大好きな彼と最近事務所
黙認の同棲をし始めたばかりで。
同棲して初めての連泊に少しだけ
寂しかったりする。

…お仕事なんだからしっかりしなきゃ!
って思ってはいるんだけど…。

まだJADE内と事務所と家族しか
知らない彼との関係は秘密の仲。

…言いたいけど言っちゃイケナイから
なるべくその手の話には触れない様に
しているの。


今回のお仕事は明日行われる大きな
音楽イベントの参加とその密着。

私も、もちろんWaveの皆さんも今回
歌手枠での参加と共にそのイベントの
裏側を密着リポートして放映する。

普段テレビでは中々見れない、普段の
皆さんをお茶の間にお届けするのが
今回の主なお仕事だ。

実はこの仕事は結構前から、今回の
イベ直前リポで放送する新人のバンドや
歌手の子らの密着も行っていた。

今回のイベは合計10組が参加。
私達と新人3組と中堅さん4組。
このイベの最大の売りである大トリは
JADE。

…そう、同棲中の彼とは同じ出張で
同じ場所に来ている。
なのに、一緒には居られなくて。
…少しもどかしい。


――ダメダメ!お仕事なんだから!


何度も自分にそう言い聞かせて、唯の
歌手枠としての参加だったら今頃は
いつものようにJADEの皆さんの居る
楽屋にお邪魔して彼と一緒に居られる
のに…なんてつい考えてしまったり。

抜擢されたのに贅沢言っちゃダメ!


「咲ちゃん、行くよ?」

「あ、はいっ!」


このイベ番組のメインリポはWaveの
皆さんで、私はサブリポーターとして
Waveの皆さんとご一緒してるから、
ずっとバタバタしてて、JADEの
楽屋にご挨拶へ行くも、バタバタの合間
しか出来なくて、本当にただ扉開けて
お顔見て、挨拶しただけで。

…それは他の演者の皆さんにも皆同じ
なんだけど、彼とも出発前に少しお家で
話したきり、殆ど話せていない。

直ぐ傍に居るのに。



「…元気無いね? 体調悪い?」


一磨さんが心配そうに顔を覗いて来る。
Waveのリーダーでもある一磨さんは
いつだってこうしてお仕事をご一緒する
皆の様子を気に掛けて下さる。


「いえ! 全然元気ですよ? ほら!」


私は思いっきり元気をアピールして、
力拳を作ってみせた。


「…ぷ! ほっそい腕。
全然チカラコブなんて無いじゃん。」


後ろから京介くんが私の腕をふにふにと
触る。…やだ、二の腕気にしてるのに!
真っ赤になって振り向くと、私の腕を
触ってた京介くんの掌を亮太くんが凄い
満面の笑みで払い除ける。


「京ちゃん、勝手なお触り禁止。」

「そうだ! 京介のどスケベ!」

「腕だけでどスケベ呼ばわり?
お子様だなぁ…翔ちゃん。」

「他に何処触ろうってんだよっ!」

「…咲ちゃん危険だから離れて。」

「そうそう、京介の傍に居ただけで妊娠
させられちゃうからね。」

「どんな生殖機能だよ。」

「せっ生殖機能…っ」

「あっもうほら! 咲ちゃん真っ赤に
なっちゃったじゃないか!」

「言いだしっぺは亮太だろ?」

「…下品。」

「お前らな、こんな場所で止せ!」


義人くんの背中に庇われて、もうただ
真っ赤になってオタオタするしかない私
…もうちょっとサラリと流せるように
なんなきゃって思うのに!


「国民的アイドルも唯のオトシゴロな男
って訳だぁなー? 咲ちゃ〜ん、
気をつけなきゃだめだよー?」


後ろからまるで巨大おんぶお化けの様に
圧し掛かってくる冬馬さん。


「「「「水城さんっ!」」」」


体重は全然掛けられて無いのに、大きな
冬馬さんの陰にすっぽりと隠れてしまう
私。


「ちょ…!
水城さんっ咲ちゃんから離れて!」

「なぁんでー?」

「今日は攫わせませんよ?
…俺ら今から一緒にリポの仕事なんで」

「む。ミケ君ヤル気?」

「やっちゃえやっちゃえ亮太!」

「…ってこの体格差で戦えって?」

「小さな巨人となれ。」

「義人…。別に僕小さくはないから。
水城さんがバカみたいにデカイだけで」

「バカみたいに、だと?」


「ちょちょ、ちょっと待って下さい!」


私の頭の上で、と言うか視界の外で正に
一触即発な会話。ビックリして慌てて
冬馬さんの腕の間から顔を出す。


「と、冬馬さん、本当に今からお仕事
なので…。ね? す、すみません…。」

「え、マジ?」

「はい、舞台裏密着なので出番以外も
今回ずっとお仕事なんです。」

「あ…そっか。そうだった。」


「こら、冬馬困らすな。」

「ぅおい、秋羅ヒトを駄々っ子みたいに
言うなよ! 困らせてねぇっつの!」

「…ホント? 咲ちゃん?
ちゃんと言ってよ?…ちゃんとコイツ
締めるから。」

「ってなっちゃん! 怖いから!」

「…本気だからな。」

「ひぃ! 春サマまで! 何だよー俺ゃ
俺らの咲ちゃんがWaveにセクハラ
されてんの見ていらんなかっただけで」


「セクハラ?! 」
「マジか。」
「…咲。」


「ち、違います!
何もされてません! 誤解です…っ」

「え、でも二の腕の柔らかいトコ中西に
ふにふにされて生殖器がどーのこうの
言われて真っ赤に…」

「ちょ…!」
「そりゃダメだわ、アウト。」
「……。」

「な?」


「違いますよ!…俺らはそんな、いや
京介が触ったのは本当ですが、それは
以後気を付けさせますし、生殖…に
関しては本当に誤解ですから。
ね、咲ちゃん。」

「は、はい! そうです!」


一磨さんは言葉を濁して下さったけど、
もう、内容が内容なだけに真っ赤に
なって否定するしか出来ない。


「…本当に?」


今度は神堂さんの心配そうな瞳が私を
覗き込む。あわわ、神堂さんの瞳って
いつ見ても吸いこまれちゃいそう…!


「は、はい!」

「ちゃんと目を見て…?」

「へぇっ?! あ、あの…っその…っ!」

「春…咲ちゃん
本当に困ってるから離して。」

「夏輝さん…っ」


そんな風にドタバタと今回のイベントは
始まったのだった。




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